大井川鉄道ED90形電気機関車

大井川鉄道ED90形電気機関車の概要

大井川鉄道のED90形電気機関車は、1990年に導入されたアプト式の牽引機です。この機関車は、特に井川線においてアプトいちしろ駅から長島ダム駅間の路線が新たに設置された際に、補助機関車としての役割を担うために製造されました。1989年に日立製作所によって完成し、翌年の9月30日に落成されました。

特徴と設計

ED90形は、各ボギー台車にラック歯車を装備しており、特にアプト式運転形式での運行に適した構造を持っています。機関車には、合計6基の電動機が搭載されており、その内訳は走行用のHS-22228形電動機が4基、そしてラック歯車駆動用のものが2基となっています。車両はED901、ED902、ED903の3両で構成されており、それぞれ異なる特徴を持っています。

ED90形の制御方式は抵抗制御で、ブレーキシステムは非常に多重化されています。具体的には発電ブレーキが常用されており、自動空気ブレーキや保安空気ブレーキ、ラックホイール用のばねブレーキ、さらには緊急時用の非常短絡発電ブレーキも装備されています。また、過速度を検知する装置（OSR）により、降坂時に速度が19 km/hを超えた場合には非常ブレーキが作動します。

車体の特異性

この機関車の外観は、特に車体の幅と高さの比率が井川線の他の車両と異なり、縦長のスリムな形状をしています。これは「馬面電車」とも呼ばれる特徴的なデザインで、井川線の狭小な車両限界に収まるよう設計されています。ED90形はアプト式区間までの移動にも対応しているため、多様な機器を搭載しなければならず、特異な条件をクリアするための工夫が施されています。また、検修を行うための構造の簡素化や塗装の簡易化にも配慮がされています。

車両の搬入と維持

ED90形の搬入時には、井川線の車両限界を超えないよう、小径車輪を用いた仮台車に載せて一旦車体と台車を切り離し、特別回送が行われました。現在、市代検車区にはリフティングジャッキや天井走行クレーンなどの設備が配置されており、日常の点検や修理が全てここで実施されています。全般検査や重整備は外注したり両国車両区に搬送して実施することもあります。

特殊な警笛のデザイン

ED90形の各車両には、特に千頭方の警笛が異なり、ED901はスイス連邦鉄道の機関車から贈呈されたものを使用しています。ED902は名古屋鉄道からのもの、ED903は日本製の警笛が装着されています。また、車両の側面にはアプト式の原理を示すイラストが描かれており、静岡県道388号接岨峡線の市代トンネルにも本機のレリーフがあります。

分岐器の工夫

ED90形が走行する区間の分岐器は、そのラックギアが低い位置にあるため、特別な二段動作式の分岐器が採用されています。この分岐器はギアとの干渉を避けるよう設計されており、フログ部分だけでなくラックギアの位置と干渉するリード部分も可動するようになっています。これにより、ED90形の安定した運行が可能となっています。

このように大井川鉄道ED90形電気機関車は、技術的な工夫と頑強な設計により、多様な運行条件をクリアする特異な存在として、多くの鉄道ファンに愛されています。

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