大切畑ため池

大切畑ため池：阿蘇の大地を潤す命の湖

大切畑ため池は、熊本県阿蘇郡西原村に位置する農業用ため池です。高さ23メートルのアースダムである大切畑ダムによって形成され、「ため池百選」にも選ばれています。しかし、2016年の熊本地震で大きな被害を受け、現在、復旧工事が進められています。

歴史

江戸時代の築造と戦後の改修

大切畑ため池の歴史は江戸時代に遡ります。肥後国熊本藩主であった細川氏が、ため池や用水路の整備を奨励し、畑作中心だった地域に多くの水田が開かれました。大切畑ため池もその一つで、布田手永の惣庄屋・矢野甚兵衛によって安政2年から6年にかけて築造されました。

戦後には大規模な改修工事が行われました。1970年度に着工し、1975年度に完成したこの工事によって、大切畑ダムは高さ23メートル、総貯水容量85万1,000立方メートルという規模になりました。この水は、水田やサツマイモ畑など約200ヘクタールの農地を潤し、地域の防火用水としても利用され、さらには近隣の深迫ダムへ水を送るなど、重要な役割を果たしてきました。

2010年3月11日には、農林水産省によって「ため池百選」の一つに選定され、その価値が改めて認められました。

熊本地震からの復興

地震による被害と避難勧告

2016年4月に発生した熊本地震は、大切畑ため池に深刻な被害をもたらしました。大切畑ダムが決壊の危機に瀕しているとして、周辺住民に避難勧告が出される事態となりました。幸い、ダムの決壊は免れましたが、分水施設の破損により大量の漏水が発生し、ため池の水を抜く措置が取られました。

農研機構の専門家による調査では、ダム堤体や洪水吐にひび割れなどの異常が確認されました。また、同じ西原村内の下小森ため池でも堤防の一部が決壊し、貯水が流出する被害が発生しました。

断層の存在とダムの移設

1996年の地質調査で、大切畑ため池をかすめるように布田川断層が走っていることが判明していました。この断層は活断層とされ、マグニチュード7程度の地震が発生すると推計されていました。そのため、西原村では事前に鳥子地区の住民に対し、大切畑ダムが決壊した場合の避難場所を指定していました。

大切畑ため池の復旧にあたっては、ダムを元の位置から270メートル南側に移設し、断層を回避する方法が採用されました。これにより貯水容量は減少しますが、受益農家の減少を考慮し、既存の3割減となる60万立方メートルで十分と判断されました。復旧費用は約87億円に上りますが、大半が国の災害復旧事業で賄われるため、県の負担は約2,740万円にとどまります。県は2018年10月9日に大切畑ダム復興事務所を開設し、2019年度に着工、2023年度完成、2024年度の供用開始を目指しています。

周辺環境

大切畑ため池の周辺は親水公園として整備されており、池を一周する遊歩道や休憩所、広場などが設けられています。春には約80本の桜が咲き誇り、夏には「ふるさと交流会いかだ競争」が開催され、秋には紅葉が楽しめます。地域住民による環境改善への取り組みも活発で、カモやサギ、イノシシ、シカ、タヌキなどの野生動物も生息しています。

ため池には、阿蘇外輪山の俵山の南麓に端を発する鳥子川の水が流れ込んでいます。上流部には妙見社・塩井社が祀られており、水源として大切にされています。

交通アクセス

• - 公共交通機関: 九州産交バス「萌の里・俵山登山口」バス停から徒歩10分。
• - 自家用自動車: 熊本県道28号熊本高森線を俵山方面へ。駐車場あり。

大切畑ため池に関連する作品

• - 西原音頭: 歌詞に「親が築いた大切畑の水でうるおす大耕地」と歌われています。

大切畑ため池は、農業用水の供給だけでなく、地域の景観や文化を支える重要な存在です。熊本地震からの復興を通じて、その役割はさらに強化され、未来へと引き継がれていくことでしょう。

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