大原騒動

大原騒動：江戸時代の飛騨を揺るがせた百姓一揆

江戸時代の飛騨国（現在の岐阜県飛騨地方）において、1771年（明和8年）から1788年（天明8年）までの18年間にわたって断続的に発生した大規模な百姓一揆を、大原騒動と呼びます。これは、明和騒動、安永騒動、天明騒動の三つの騒動を、当時の飛騨郡代であった大原氏の名前を冠して総称したものです。

明和騒動：過重な負担と高まる民衆の怒り

明和騒動の発端は、1765年（明和2年）に第12代飛騨郡代に大原紹正が就任したことでした。紹正の治世下、飛騨地方では御用材の伐採や年貢米の江戸への輸送など、村々にとって過酷な負担が課せられました。特に山間部の村々では御用材の伐採は生活そのものを脅かすものであり、平地部の農民も新たな税制や強制労働に苦しみました。

1770年（明和8年）には、阿多野・小坂両郷の村民代表が、御用材伐採の中止を訴えるため江戸に上洛します。しかし、訴えは聞き入れられず、大原紹正はさらに御用金を徴収、新たな税制を導入しようとします。

同年12月、飛騨国分寺で開かれた村々の集会では、年貢米の江戸への輸送が再開されるという噂が流れ、民衆の怒りは爆発。代官に協力した町人宅などが襲撃され、大原紹正は鎮圧に乗り出し、多くの農民が投獄・処刑されました。この鎮圧によって、労働奉仕は停止され、山間部の農民への救済米の支給が始められました。

安永騒動：検地と駕籠訴、そして大規模な一揆

1773年（安永2年）、大原紹正は新たな検地を実施。約束を反故にし、古い田畑まで検地対象とし、年貢を増額しました。これに対し、農民らは激しい反発を示し、代官所に請願書を提出しますが拒否されます。

同年7月、8名の代表が江戸に駕籠訴を行い、老中松平武元に嘆願書を提出しますが、多くが処刑されました。この決死の行動は、農民たちの怒りと絶望を象徴するものでした。

その後、一揆は飛騨全域に拡大。幕府は周辺藩から兵を動員し、一揆を鎮圧しました。多くの農民が死傷し、捕縛されました。翌年には、一揆に参加した者たちが処罰されました。

1777年（安永6年）、大原紹正は郡代に昇進しますが、その後、妻の自害、失明、急死と不幸が続きました。

天明騒動：大原正純の悪政と終焉

1781年（天明元年）、大原紹正の子である大原正純が飛騨郡代に就任します。正純は、私利私欲のため、過納金の不払い、巨額の借金、天明の大飢饉対策としての年貢免除分の横領など、数々の悪政を行い、農民や役人の反感を買い、訴えは繰り返し江戸に届けられました。

1789年（寛政元年）、大原正純は江戸に召喚され、お白洲で百姓代表と対峙。その結果、八丈島に流罪となり、大原騒動は終焉を迎えました。関係者も処罰され、大原騒動は幕を閉じました。

大原騒動は、飛騨地方の農民たちの悲痛な叫びであり、幕藩体制の矛盾を浮き彫りにした歴史的事件と言えるでしょう。過酷な年貢や強制労働、そして代官の横暴に対する農民の抵抗は、後世に貴重な教訓を残しました。この騒動は、単なる一揆ではなく、当時の社会構造や政治体制に対する農民たちの抵抗運動として、歴史的に重要な意味を持っています。

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