大和川付替え

大和川付替え：江戸時代の治水と新田開発

大和川付替えは、1704年（宝永元年）に江戸幕府主導で行われた大規模な河川改修工事です。それまで淀川に合流していた大和川の流路を西向きに変え、大阪湾へ直接流れ込むように変更しました。この工事は、河内平野の度重なる洪水被害の軽減と、新田開発を目的としていました。

大和川の流路

大和川は、奈良県から大阪府へと流れる川です。奈良盆地の水を集め、生駒山地と金剛山地の間の亀の瀬峡谷を通り、大阪平野へ出ます。現在の流路は、亀の瀬から西へ上町台地を横断し、堺市北部で大阪湾に注ぎます。大阪府内では、南側からのみ支流が流入します。

奈良県内の大和川

大和川の源流は、奈良盆地東部の大和高原に位置します。初瀬川として南流し、長谷寺付近から西へ向きを変え、三輪山の南を通過して奈良盆地に入ります。河川法上は桜井市から大阪湾までを大和川としますが、上流部は初瀬川と呼ばれることもあります。奈良盆地を西へ流れ、佐保川、富雄川、竜田川、寺川、飛鳥川などを合流させ、盆地の水を全て集めて亀の瀬峡谷へと向かいます。盆地を取り巻く山地は、花崗岩が風化したマサ土で覆われており、雨による土砂流出が頻繁に発生します。

付替え前の大阪府内の大和川

亀の瀬峡谷を抜けて大阪平野に出た大和川は、かつては河内平野を北や北西へと分流していました。石川との合流点から北へ流れを変え、現在の八尾市二俣で玉串川と久宝寺川に分かれました。久宝寺川が主流でしたが、当時は天井川でした。玉串川も天井川であり、さらに吉田川と菱江川に分流しました。これらの川は、河内平野の灌漑用水として利用され、最終的には久宝寺川へと流れ込み、寝屋川と合流して淀川へと注いでいました。しかし、大和川は度重なる洪水と氾濫を起こし、流路を変遷させてきました。

大和川の氾濫と付替えの経緯

大和川の氾濫は古代から記録されており、その都度修復が行われてきました。和気清麻呂は、上町台地を掘削して大阪湾へ直接流すことを試みましたが、実現しませんでした。江戸時代に入り、氾濫が頻発したため、住民から付替えの嘆願が相次ぎました。1638年以降、幕府は堤防決壊に対応しますが、川筋の村々の対立もあり、工事は難航しました。1674年の「寅年洪水」では、河内平野が広範囲に浸水し、多数の死者が出ました。その後も住民からの嘆願や反対運動が繰り返され、1703年に幕府は正式に大和川の付替えを決定しました。

土砂による川床上昇

1683年の幕府の検分では、水害の原因は上流からの土砂流出とされました。1626年から1675年までの50年間で川床が3.6メートルも上昇し、天井川化が進行しました。これは、豊臣秀吉による大阪城建設や、その後の幕府による再建などで大量の木々が伐採されたことが影響していると考えられています。幕府は、山での木の根の掘り取り禁止や植林を指示する「山川掟」を繰り返し出しました。

付替え工事の内容

新川は、大和川と石川の合流点から西へ向かい、堺の北で大阪湾に達するルートで建設されました。瓜破台地と上町台地を横切る必要があったため、台地を迂回し、既存の依羅池の窪地を利用しました。両台地以外では盛土で築堤が行われました。新川の幅は約180メートル、堤防の高さは左岸側が4.5メートル、右岸側が5.5メートルとされました。全長14.3キロメートルのうち、掘削部が5.5キロメートル、盛土部が8.8キロメートルでした。また、新川の堤防で分断される河川の排水対策として、落堀川が開削されました。さらに、灌漑用水を供給するための用水樋や、大阪市街からの水運を確保するための水路延伸も行われました。

工事の施行

工事は、幕府直轄の公儀普請と、大名による御手伝普請として行われました。稲葉重富が堤奉行に任命され、萩原重秀と中山時春が勘定奉行、大久保忠香と伏見為信が普請奉行となりました。本多忠国ら複数の大名が工事を分担し、1704年2月27日に着工、10月13日に完成しました。工事には延べ245万人から250万人が携わったとされ、総費用は71,503両余に及びました。工事完了後、中甚兵衛が名字帯刀を許されています。

新川工事による田畑の消長

新川の流路や付帯工事で使用できなくなった田畑の面積は274町6反余り、石高にして3,710石でした。代替地が提供されましたが、遠隔地の場合は売却されることもありました。一方、旧大和川水系では新田開発が進められ、1,168町3反あまり、石高10,953石余りの新田が開かれました。鴻池新田や深野新田などがその例です。新田開発による地代金は、幕府が支出した工事代金と同額の3万7千両余りとなりました。

工事後の状況

新大和川の完成により、右岸一帯の水害は大幅に改善されましたが、左岸地域では排水問題が発生しました。落堀川が開削されましたが不十分で、浸水が頻発しました。また、綿作との関係では、狭山池の用水路が分断されたため、綿作が盛んになったとされています。

船運への影響

旧大和川流域を運行していた剣先船は、新大和川を運行することになりましたが、遠回りになるうえ水量が少なく、運行が困難になりました。堺の町への影響としては、新川からの土砂が河口に堆積し、堺港の利用が減少しました。一方で、河口部では新田開発が進められ、河口が沖合へと伸びました。

まとめ

大和川付替えは、江戸時代における大規模な治水事業であり、河内平野の洪水被害の軽減と新田開発に大きく貢献しました。しかし、新たな排水問題や船運への影響、堺港の衰退など、負の側面も存在しました。この工事は、自然環境と人間社会の関わり方を考える上で、重要な事例と言えるでしょう。

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