大山咋神
大山咋神（オオヤマクイノカミ）について
大山咋神は、日本神話に登場する神で、『古事記』や『先代旧事本紀』にその名が記されています。
神名の由来と神格
「くい」は杭を意味し、大山に杭を打ち込むようにその山を所有する神、つまり山の地主神であることを示しています。また、農耕や治水にも関わる神として、人々の生活を守護する存在でもあります。
系譜
大山咋神は、大年神と天知迦流美豆比売の子とされています。『古事記』では、別名を山末之大主神（やますえのおおぬしのかみ）とも記されています。
主な鎮座地と信仰
『古事記』には、大山咋神が近江国の日枝山（現在の日吉大社）と葛野（現在の松尾大社）に鎮座し、鳴鏑を神体とすると記されています。
- - 日枝山（日吉大社）: 比叡山の麓にある日吉大社は、全国の日枝神社の総本社であり、大山咋神を祀る中心的な場所です。日吉大社では、大物主神も祀られており、それぞれ大比叡、小比叡と呼ばれています。また、比叡山は天台宗の延暦寺が建立されてからは、その守護神としても崇敬を集めてきました。
山王信仰と神道
大山咋神は、山王権現としても信仰されています。山王とは、中国の天台山に由来する神であり、比叡山では、大山咋神を含む複数の神々が山王として祀られてきました。天台宗が興した山王[[神道]]は、後に天海によって山王一実神道と改められました。また、太田道灌が江戸城の守護神として日枝神社を勧請したことから、江戸時代には徳川家の氏神、明治以降は皇居の鎮守とされています。
賀茂神社との関係
『秦氏本系帳』には、上賀茂神社の祭神である賀茂別雷大神が、松尾大社の祭神、すなわち大山咋神であるという説が記されています。また、賀茂別雷神社の神山には、日吉大社や松尾大社と同様に巨大な磐座があり、陰陽道の影響が見られるなど、三社の間には共通点が多いことが指摘されています。さらに、日吉大社の山王祭は、大山咋神と鴨玉依姫神の結婚を再現したものとも言われています。
大山祇神との混同
大山咋神は、同じく山の神である大山祇神と混同されることがあります。しかし、大山咋神は日枝山の神であるのに対し、大山祇神は山全体の神、つまり普遍的・代表的な存在としての山の神です。両神は系譜上も異なり、大山咋神の父である大年神の母神、大市比売の父が大山津見神（大山祇神）にあたります。混同の例として、三島神社に大山咋神が祀られていたり、日枝神社に大山祇神が祀られている場合があります。また、松尾大社が酒造の神とされるのは、梅宮大社の酒解神（大山祇神）と混同されたことが原因であるという説もあります。南北朝時代の北畠親房が記した『二十一社記』では、松尾神（大山咋神）を三島神（大山祇神）と同じと記述してしまっている例も見られます。
まとめ
大山咋神は、山の地主神としてだけでなく、農耕や治水の神としても古くから信仰されてきました。その信仰は、日吉大社や松尾大社を中心に、全国に広がっています。また、山王権現として、天台宗や江戸幕府など、時の権力者からも厚く信仰されてきました。しかし、大山祇神との混同も見られ、その神格の解釈には複雑な側面も存在します。
参考文献
- - 式内社研究会 編『式内社調査報告 第六巻 東海道1』皇學館大学出版部、平成2年2月28日、690p. ISBN 4-87644-080-8
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