山王神道

山王神道について

山王神道（さんのうしんとう）は、平安時代末期から鎌倉時代にかけて、比叡山延暦寺で生まれた神道の流派です。この神道は、天台宗の信仰と深く関わっています。広義には、比叡山における「山王」を中心とした神々の信仰を指し、狭義には江戸時代の天海以前の教義を含むものとして捉えられます。細分化されたこの神道の教えは、体験や思想に大きな影響を及ぼし、特に記家の文献に基づく思想が支えています。

概要

山王神道は日枝山（比叡山）の山岳信仰、神道、そして天台宗が結びついた信仰体系です。山王権現（または日吉大宮権現）は、仏教の教義を反映させながら成り立っており、釈迦の垂迹から派生したものと見なされています。神仏分離政策の影響を受け、大山咋神としたことが知られています。興味深いことに、「山」と「王」という文字は、三本の線とそれを貫く一本の線で成り立っており、これは天台宗の三諦即一思想に結びつけられています。

この神道の教義を詳細にまとめた文献として『山家要略記（さんけようりゃくき）』があります。これは比叡山の僧・義源が編纂したものであり、鎌倉時代の後期にあたります。この書籍は比叡山の神道思想や大衆の活動を研究する上で重要な資料とされています。義源は、「記家（きけ）」という修行派に属し、その教義は山王神道に深く結びついていました。

また、貞治5年（1366年）頃に成立したとされる『神道雑々集（しんどうざつざつしゅう）』にも多くの山王神道に関する記載があります。この集は、文和・延文年間に成立したとされる文献『神道集』の影響で編纂されたとされ、記家の思想と深く結びついています。前者は、山王神道に積極的だった恵心流の人物によって作成されましたが、後者は安居院流に影響を受けたもので、対照的な位置づけにあります。

教義の形成

山王神道の教義の形成は、一概に記家に限定されるわけではなく、様々な流派と歴史的背景が交差しています。記家は神道を大切にし、活動の中心として山王神道の伝承に貢献してきましたが、それが唯一無二の存在ではないという見解も存在します。特に、記家と戒家の関係が深いという説もあり、南都における戒律の復興を目指す戒家の影響や、比叡山周辺の大衆の活動などが山王神道の発展に寄与したことが確認されています。

多くの歴史的証拠が示すとおり、山王神道の始まりは貞応2年（1223年）成立の『耀天記』に記載された本地垂迹説に遡ります。この初期段階では、教理はまだ未熟であったとされています。その後、鎌倉時代後期、伊勢神道から多くを学び、教義が洗練されていきます。その中で、義源が『山家要略記』を編纂し、教説が形成されていきました。

山王一実神道

江戸時代に活動した天海は、山王神道をもとに山王一実神道（さんのういちじつしんとう）を築き、徳川家康の霊を神として祀ることを提唱しました。彼の教えによると、山王権現は大日如来や天照大神であるとし、伊勢神道の影響が見受けられます。

家康の死後、彼は山王一実神道に基づいて崇拝され、東照大権現としての地位を確立しました。だが、山王神道全体は、江戸幕府からは特に重視されず、神道としては独特の地位を持たないままとなりました。これは幕府が宗教全般を重視せず、特に神道が主要な関心事でなかったことを示唆しています。

その後、信州出身の乗因が山王一実神道を学び、信州で異端として訴えられたものの、教えを広めることに成功しました。彼は天台宗の内部対立の中で異端とされ、流罪にされましたが、後に恩赦を受けてその教義は存続しました。

このように、山王神道は歴史的に多くの変遷を経ながら発展し、現在に至るまでさまざまな解釈や研究がなされています。

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