大崩海岸

大崩海岸（おおくずれかいがん）

大崩海岸は、駿河湾の沿岸に位置し、静岡市駿河区石部から焼津市浜当目まで約4キロメートルにわたって連なる急峻な断崖の海岸線です。この地域は地すべりや崖崩れが頻繁に発生することから「大崩」という地名が付けられました。

地理と景観

この海岸は、静岡平野と志太平野の境界に位置しており、背後には高草山山塊の標高100メートルから300メートル級の険しい断崖が駿河湾に落ち込んでいます。地質的には、海底火山の活動によって形成された竜爪層群の一部であり、玄武岩や粗面岩から成り立っています。場所によっては、溶岩が急速に冷えて固まった際にできる枕状構造なども観察できます。

海岸線には平坦な土地がほとんどなく、波打ち際沿いの通行は極めて困難です。しかし、その劇的な地形が織りなす景観は圧巻で、駿河湾を挟んで遠くには富士山や伊豆半島の美しい姿を望むことができます。この雄大な自然景観は、景勝地として古くから知られており、周辺には宿泊施設やミカン畑なども見られます。

交通の歴史

大崩海岸は、その険しい地形ゆえに古来より交通の難所でした。明治時代までは、焼津側の虚空蔵山（当目山）より北側の一部で海岸沿いに道があり通行できたとされますが、激しい波浪浸食により海岸沿いの往来は不可能となりました。

主要な交通路の建設は困難を極めました。

鉄道（東海道本線）
東海道本線の敷設計画においては、内陸の宇津ノ谷峠を経由する案も検討されましたが、最終的には大崩海岸沿いに建設が進められました。現在の石部トンネルと磯浜トンネルの前身となるトンネルが掘削され、トンネル間は断崖に沿った築堤が建設されました。1887年の工事は困難を極め、落盤事故により12名もの犠牲者を出しています。

戦時中の弾丸列車計画の一部として、先行して現在の東海道新幹線の日本坂トンネルが開通した後、東海道本線は一時的にそちらを経由して運行されました。この期間、大崩海岸沿いの旧鉄道トンネルは道路として利用されたこともあります。新幹線建設決定後、旧鉄道トンネルは内部を直結するなど大規模な改良工事が実施され、現在の石部トンネルが完成しました。

道路
海岸沿いの崖下を避ける形で、中腹の比較的緩やかな傾斜地を選んで峠越えをするルートが整備されました。これが後の国道150号の一部（現在の静岡県道416号静岡焼津線）となります。しかし、急峻な地勢のため落石や崖崩れが頻発し、安全確保のために防災工事が幾度となく実施されました。

1971年7月には、旧国道150号の洞門付近で土砂崩れが発生し、走行中の乗用車が巻き込まれる事故が発生しました。この事故を契機に、静岡側の崩落危険箇所を避けるための海上橋による迂回路が設置されるなど改良が進められました。たけのこ岩トンネルの開通なども行われていますが、この区間では現在でもしばしば通行止めが発生します。

交通状況を大きく改善したのは、1978年に開通した静岡バイパスの日本坂トンネルです。これにより、大崩海岸を経由せずに静岡と焼津を短時間でアクセスできるようになりました。現在ではこのバイパスが国道150号の本線とされ、大崩海岸沿いの旧道は静岡県道416号に指定されています。

近年の状況

近年も地盤沈下や崩落が続いており、交通への影響が出ています。

2013年10月中旬の路面沈下により、焼津方面からの進入が制限され、長期間にわたり全面通行止めが続きました。崩落区間を迂回する新たな浜当目トンネルが建設され、2017年3月13日に開通。これにより崩落区間を含む旧道は廃止されました。
2023年7月6日には、既に廃止されていた旧道に位置する石部第五洞門の地点で、土砂崩れにより約40メートルにわたって崩落しているのが確認されました。
* 2024年7月2日、県道416号線の浜当目トンネル付近で斜面崩落が確認され、その日の夜から浜当目トンネルを含む静岡市〜焼津市間の区間は当面の間、全面通行止めとなる措置が取られています。

度重なる自然災害は、大崩海岸が今なお変動を続ける活発な地形であることを示しています。災害の歴史が地名に刻まれたこの場所は、現在も交通網の課題を抱えつつ、その独特な地形と景観によって地質学や自然景勝の観点から注目されています。

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