石部トンネル

石部トンネル

石部トンネル（せきべトンネル）は、静岡県静岡市駿河区と焼津市にまたがる、東海旅客鉄道（JR東海）東海道本線の鉄道トンネルです。東海道本線の用宗駅と焼津駅の間に位置しています。

誕生と初期の歴史

石部トンネルの起源は、1889年（明治22年）の東海道本線開業時に遡ります。この時、現在のトンネルがある区間には、石部トンネル（長さ910メートル）と磯浜トンネル（長さ970メートル）の二つのトンネルが同時に供用を開始しました。開業後の輸送量増加に対応するため、1911年（明治44年）3月には、山側に新たなトンネルが建設され、この区間は複線化されました。

このトンネルが建設された場所は、静岡県の海岸線の中でも特に地質が不安定な大崩海岸の中央部です。脆いアルカリ玄武岩を主とする地質のため、古くから土砂崩壊が頻繁に発生する難所であり、鉄道の運行や維持管理においても常に課題を抱えていました。

旧線の課題とルート変更

開業時の石部・磯浜トンネルは、曲線半径が400メートルから600メートルと小さく、列車の速度を制限する必要がありました。また、トンネルの断面も狭かったため、大型貨物の通過に支障を来たすなど、鉄道輸送の近代化に対応できない構造上の問題も抱えていました。

こうした状況の中、太平洋戦争中の1941年（昭和16年）8月、弾丸列車計画の一環として、現在の東海道新幹線日本坂トンネルとなる新たな日本坂トンネルの建設が開始されました。戦況悪化により弾丸列車計画は中止されましたが、トンネル建設は継続され、1944年（昭和19年）12月には東海道本線が完成した日本坂トンネルを経由する新ルートに変更されました。

ルート変更に伴い、旧石部トンネルと旧磯浜トンネルは鉄道トンネルとしての役目を終え、その後は一般道路として活用されることになりました。旧線時代には、1948年（昭和23年）のアイオン台風により旧石部トンネルの一部が崩落する被害も発生しています。また、1950年代には、静岡鉄道がこのトンネルを含む焼津延長線の鉄道免許を取得した時期もありましたが、最終的に計画は放棄されました。

現在のトンネルの誕生

戦後、東海道新幹線の建設が進められることになり、東海道本線が使用していた日本坂トンネルを新幹線専用とする方針が決定されました。これにより、東海道本線は再びルートを変更する必要が生じます。

その代替として、一度は廃止された旧石部トンネルと旧磯浜トンネルを改修し、鉄道トンネルとして再利用する計画が実行に移されました。1961年（昭和36年）5月に改修工事が着工され、両トンネルを結合する大規模な改修を経て、「（新）石部トンネル」として生まれ変わりました。そして1962年（昭和37年）に改修が完了し、東海道本線は再びこのトンネルを通るルートに戻されました。同年9月25日に下り線、28日に上り線がそれぞれ使用を開始し、現在に至っています。

現在の石部トンネルの坑口を見ると、東京側は旧石部トンネル時代のものが、神戸側は東海道本線開業時の旧磯浜トンネルのものがそのまま利用されています。旧トンネルの遺構として、旧石部トンネルの神戸側坑門（海側・下り線）は崩落した姿で今も残されていますが、旧磯浜トンネルの東京側坑門は埋め立てられてしまい、残念ながらその姿を見ることはできなくなっています。現在の石部トンネルは、こうした複雑な経緯を経て、大崩海岸の難所を貫く重要な鉄路として機能し続けています。

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