大日山35号墳

大日山35号墳

大日山35号墳は、和歌山県和歌山市の岩橋・井辺地区にある、国の特別史跡「岩橋千塚古墳群」に属する古墳の一つです。岩橋千塚古墳群を構成する数多くの古墳の中でも特に規模が大きく、その形状は前方後円墳です。この古墳からは、当時の紀伊の有力首長の権力や文化を示す豊富な出土品が見つかっており、特に形象埴輪群や、岩橋型横穴式石室の初期の姿を伝える埋葬施設は、学術的に極めて重要な価値を持っています。古墳全体が特別史跡の一部であるほか、出土品は国の重要文化財に指定されています。

立地と規模

この古墳は、和歌山平野の紀の川河口部近くに位置する岩橋山塊の、最も西にある大日山（標高141m）の頂に築かれました。2003年度から2005年度にかけて集中的な発掘調査が行われ、詳細が明らかになりました。墳丘は前方後円形で、南北を主軸とし、前方部が南を向いています。盾形の基壇の上に二段にわたって築かれ、全長は約86m（基壇を含めると約105m）と、和歌山県内では有数の規模を誇ります。

墳丘と出土品

墳丘の表面には円筒埴輪が並べられ、左右のくびれ部には張り出しである「造出（つくりだし）」が設けられています。造出の調査からは、極めて多様で大量の形象埴輪が出土しました。これには、家形、人物、動物、器財をかたどったものがあり、人物埴輪には盛装男子、武人、力士、巫女などが含まれ、中でも全国初例となる両面の人物像が見つかっています。動物埴輪では、馬や牛、鳥などが確認され、これも全国初例となる翼を広げた鳥の埴輪が含まれます。器財埴輪には大刀や胡籙（矢筒）などがあり、この胡籙も全国初例です。これらの形象埴輪は、当時の祭祀や社会の様子を具体的に知る上で貴重な資料です。一部の埴輪には、畿内の有力古墳である今城塚古墳との類似性も指摘されています。墳丘からは須恵器も見つかっており、特に造出の上には甕が据えられた状態で見つかっています。

埋葬施設

後円部には、被葬者を葬った横穴式石室が築かれています。この石室は西側に向けて開口しており、内部は両袖式（右袖がやや大きい片袖傾向）の構造です。地元の結晶片岩の板石を用いて積み上げ、少しずつ持ち送る技法で構築されています。玄室（遺体を安置する空間）には、岩橋千塚古墳群の石室に特徴的な石棚と石梁が設けられています。この石室は、岩橋型横穴式石室の中でも古い段階のものと考えられています。玄室と羨道（外部へ続く通路）の床はほぼ同じ高さで、玄室の床には玉石が敷かれ、その下には排水溝も設けられています。

出土品の意義と築造時期

石室内からは、被葬者の権力と財力を示す多数の副葬品が見つかっています。装身具として各種の玉類、鉄製品として武具（鉄刀、鉄鏃、甲冑類）、馬具（飾り金具、杏葉、鐙など）、農工具（刀子、鍬先）などが豊富に出土しました。また、須恵器も出土しており、その様式（MT15-TK10型式）から、この古墳が古墳時代後期の6世紀前半頃に築かれたと推定されています。これらの豊富な副葬品や多種多様な形象埴輪は、被葬者がこの地域の強大な首長であったことを物語っており、岩橋千塚古墳群を営んだ人々の実像や、当時の畿内との関係などを理解する上で、極めて重要な情報を提供しています。

歴史と現状

大日山35号墳を含む岩橋千塚古墳群は、1931年に国史跡に、1952年には特別史跡に指定されました。古くから知られていましたが、墳丘の改変などを経て、2003年から2005年の発掘調査で詳細が明らかになりました。これらの調査で発見された埴輪と須恵器の一部は、その学術的価値の高さから2016年に国の重要文化財に指定されています。現在、古墳域は特別史跡として整備され、一般に公開されています。出土品の一部は和歌山県立紀伊風土記の丘に保管・展示されており、見学することができます。

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