大森時長

大森時長

大森時長（おおもり ときなが）は、江戸時代中期の旗本であり、幕府の要職を歴任した人物です。

生涯

大森時長は、土屋市之丞正敬の三男として生まれ、幼名を半七郎と称しました。後に大森勝長の養子となり、その跡を継いで旗本となりました。書院番士からキャリアをスタートさせ、使番、目付と順調に昇進を重ね、最終的には長崎奉行という重要な役職に就任しました。

長崎奉行としては、享保の大飢饉という未曾有の危機に直面しました。この飢饉は西日本一帯を襲い、長崎も例外ではありませんでした。大森は、もう一人の長崎奉行である細井安明と協力し、市民の救済に尽力します。特に、飢饉が深刻化した享保18年（1733年）以降は、大森が中心となって対策を講じました。

享保の大飢饉と大森の活躍

大森は、代官や町年寄を招集し、飢饉対策を協議しました。その結果、市中の米を確保し、市民への配給を最優先とすることを決定しました。具体的には、以下の対策を実施しました。

米の買い占め防止と確保: 商人による米の買い占めを禁じ、町年寄に命じて米を確保させました。また、周辺地域からの米の調達も行いました。
市民への相互扶助の奨励: 市民に対して、飢餓に苦しむ人々への相互扶助を呼びかけました。同時に、酒、餅、麺類の製造・販売を禁止し、物資の過剰な消費を抑制しました。
打ち壊し事件への対応: 占め売りをしていた米屋への打ち壊し事件が発生した際には、首謀者を穏当に処置し、米を買い占めていた商人に対しては、罪を軽減する代わりに、貯蔵米を安価で販売するように命じました。これにより、米価が下がり、市民の生活が安定しました。
貿易資金の流用: 官庫の貯蔵米が尽きた際には、海外貿易用の銅の買い入れ資金を米の購入に充てるという大胆な決断を下しました。役人たちは幕府の許可が必要だと難色を示しましたが、大森は市民の命を優先し、独断で実行しました。この決断が、長崎における餓死者を一人も出さないという奇跡的な結果につながりました。

これらの対策により、長崎では飢饉による死者を出すことなく乗り切ることができました。この功績から、長崎の住民は大森を深く尊敬し、奉行所を拝む者が後を絶たなかったと伝えられています。

罷免とその後

享保18年（1733年）秋、西国は豊作となり、大森は長崎を離れました。長崎の住民は、恩人である大森を見送るために大勢が詰めかけたと言われています。

しかし、江戸に戻った大森は、翌享保19年（1734年）に長崎奉行を罷免されてしまいます。長崎の市民は、この知らせに驚き、悲しみに暮れたと伝えられています。罷免の理由については、米の買い付けのために貿易資金を流用したことや、貿易に関する不手際など、諸説が飛び交いました。公式には、以下の3つが理由として挙げられています。

1. 米の購入により、輸出用の銅の買い入れ資金が不足したこと
2. 貿易仕法改正命令に対する、相手側（唐・オランダ）の承諾書の提出が遅れたこと
3. 唐船の滞留

罷免後、大森は小普請落ちとなり、一時的に出仕を止められましたが、すぐに許されました。その後、宝暦10年（1760年）に致仕し、翌年に72歳で亡くなりました。

祖父との縁

大森時長の祖父である甲斐庄喜右衛門正述も、長崎奉行を務めた人物です。甲斐庄もまた、長崎在任中に飢饉が発生した際、近国からの米の廻送を指示し、市民を救いました。祖父と孫が共に長崎の飢饉対策に貢献したという事実は、歴史の偶然とも言えるでしょう。

まとめ

大森時長は、長崎奉行として、享保の大飢饉という未曾有の危機に際し、卓越したリーダーシップと大胆な決断力で、長崎市民を救った名奉行でした。その功績は今も語り継がれていますが、罷免の真相については未だに謎が残されており、様々な憶測を呼んでいます。

参考文献

『「株式会社」長崎出島』 赤瀬浩著 講談社選書メチエ
『長崎奉行の研究』 鈴木康子著 思文閣出版
『国史大辞典』10巻 吉川弘文館
『新訂 寛政重修諸家譜』第五 株式会社続群書類従完成会

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