町年寄(まちどしより)とは
町年寄は、
江戸時代の町政を司る町役人の筆頭に位置する役職です。地域によって名称が異なり、
江戸や長崎、
京都などでは「町年寄」と呼ばれましたが、大坂では「惣年寄」、名古屋では「惣町代」など、様々な呼び名がありました。
各地の町年寄
江戸では、
町奉行の下に3人の町年寄がいました。彼らはそれぞれ、
奈良屋、樽屋、喜多村という旧家が世襲で務めました。
奈良屋は、徳川家康に仕えた小笠原小太郎を先祖に持つとされ、代々「市右衛門」を名乗りました。7代市右衛門は
享保の改革で問屋仲間の結成に尽力し、10代市右衛門は猿屋町会所での業務で功績をあげ、帯刀を許されました。
樽屋
樽屋の先祖は、徳川家康の従兄弟にあたる
水野忠政の孫、樽三四郎康忠です。初代は三四郎の子、藤左衛門忠元で、代々「藤左衛門」を名乗りました。12代目与左衛門は、
寛政の改革で
札差仕法改革に貢献し、帯刀を許されています。樽家の墓は
蔵前の西福寺にあります。
喜多村
喜多村は、家康に従って
江戸入りした武士を先祖に持ち、初代文五郎が
町人になりました。喜多村は
明智光秀の子孫であるという伝承もあります。文五郎は隠居の際、
家督を二分し、婿の彦右衛門に町年寄役を譲りました。喜多村は、町支配の他に、馬の飼料の補給や連雀商札座の特権を与えられていました。
京都では、
1656年に町内年寄役が設けられ、
1723年には1町に1人、任期3年と定められました。選任方法は、順番や投票など時期によって異なりました。町代が自治の中心となるにつれ、町年寄は
町触の伝達など支配末端としての役割が強まりました。
大坂町年寄
大坂では、17世紀中頃に惣年寄と町年寄が設置されました。町年寄は
町人による入札で選ばれ、惣年寄が検分して決定しました。町年寄は家業を営むことは許されましたが、定給はなく、袴摺料という金が支払われました。
町触の伝達や人別改め、火の用心、訴訟の調停、書類の作成・保管など様々な職務を行いました。
甲府町年寄
甲府では、
1724年に
町奉行に代わって甲府勤番支配が町政を司るようになり、坂田与一左衛門と山本金左衛門の2人が町年寄に任命されました。両家は世襲制で町年寄を務めました。
長崎町年寄
長崎では、貿易商であった頭人(とうにん)が町年寄の先祖です。
1592年に頭人が町年寄と改められ、高木、高嶋、後藤、町田の4家が任じられました。その後、人数が増減し、最終的には9家体制となりました。長崎では、町年寄が
長崎奉行の補佐役として、市政・貿易業務を担い、地役人を監督しました。他の地域の町年寄とは異なり、貿易業務に専従する地役人を監督するという点が特徴です。
町年寄の職務
町の統制
町年寄は、
町奉行の意を受けて、町の統制を行いました。問屋仲間の結成や、商売人の組合帳簿の管理、新規加入の届け出など、様々な業務を担当しました。
江戸の町年寄は、豊島郡の村々の
代官を兼務し、上水の管理も行っていました。一時、上水奉行に管理が移管されましたが、後に再び町年寄が管理することとなりました。
地所の受け渡し
町人地の受け渡しには、
町奉行所の役人と共に、町年寄が立ち会いました。この立会は町年寄の義務でしたが、多忙のため、
手代が代わりに出向くことが多かったようです。地割役も立ち会っていました。
町触は、
町奉行から町年寄、名主、
町人へと伝達されました。重要な
町触は、名主が
町奉行所や町年寄役所に呼び出されました。町年寄が
町奉行に代わって
町触を発することもあったようです。
調査・調停事務
町年寄は、事業計画の前例調査や、町々の支障に関する調査を行いました。また、民事訴訟の調停も担当しました。特に金銀の出入りに関する訴訟は、町年寄に下げ渡されることが多くなりました。
人別帳その他の管理
町年寄は、人別帳を管理し、各町の人口や家族構成、職業などを把握していました。また、跡式(跡目相続)の手続きも行いました。町内での切支丹
宗門改に関わる寺手形も管理していました。
日傭座
日雇人足を管理するために日傭座が設置され、町年寄は鑑札の発行や札役銭の徴収を行いました。
その他
町年寄は、町名主の退役手続きや、拝領地の管理、伝馬制度の改正、米蔵の設計など、様々な業務に関わりました。
町年寄の特権
町年寄は、
町人でありながら、武士と同等の権威を与えられ、帯刀や熨斗目の着用が許されていました。しかし、一時これらの特権は剥奪されました。その後、特定の状況下での帯刀が許可されたり、苗字を名乗ることが許されたりしました。
町年寄の家督相続
町年寄の
家督相続には、
町奉行の許可が必要でした。町年寄が死亡した場合、親類が他の町年寄に願書を提出し、
町奉行を経て
老中の許可を得て、相続が認められました。
町年寄の収入
町年寄は、拝領地の地代収入や、古町
町人からの晦日銭などを収入としていました。また、枡座を兼ねていたり、上水の管理を担当していたりした際には、扶持米や手当が支給されていました。業務に必要な経費が不足した場合には、幕府に拝借金や拝借米を願い出ました。
維新政府における町年寄
明治維新後、町年寄は
東京府の管轄となり、免職されました。その後、私塾を開いたり、区長になったりした者もいました。
まとめ
町年寄は、
江戸時代の町政において、非常に重要な役割を担っていました。地域によって、その名称や選任方法、職務内容は異なりましたが、いずれも
町人でありながら、武士と同等の権威を与えられ、町の自治を担っていました。