大河内正敏

大河内正敏：科学と産業の架け橋を築いた先駆者

大河内正敏（おおこうち まさとし）は、1878年（明治11年）に東京府で生まれ、日本の物理学者、実業家として多大な功績を残しました。子爵の爵位を持ち、理化学研究所（理研）の第3代所長、貴族院議員を務めました。身長180cmという恵まれた体格の持ち主で、その存在感は人々に強い印象を与えました。大河内は、旧三河吉田藩の大河内家の養子となり、最後の藩主である大河内信古の娘を妻に迎えました。また、無名時代の田中角栄を支援したことでも知られています。

生い立ちと学問

大河内は、旧上総大多喜藩主の子爵・大河内正質の長男として生まれました。学習院初等科時代には、後の大正天皇の学友として学びました。その後、第一高等中学校を経て、東京帝国大学工科大学造兵学科に入学し、特待生として優秀な成績を収めました。1903年（明治36年）に東京帝大を首席で卒業し、恩賜の銀時計を授与されました。卒業後は帝大講師となり、その後、私費でヨーロッパに留学し、1911年（明治44年）に帰国すると東京帝大教授に就任しました。

研究活動と理研所長時代

大河内は、寺田寅彦と共同で飛行弾丸の流体的な実験を行うなど、研究者としても高い能力を発揮しました。1914年（大正3年）には工学博士の学位を取得。1921年（大正10年）には、山川健次郎の推薦により、理化学研究所の所長に就任しました。理研では、主任研究員に自由な研究を認める研究室制度を導入し、研究成果の事業化を積極的に推進しました。これにより、理研は国際的な研究機関へと発展し、その名声を確立しました。1925年（大正14年）には、東京大学教授の職を辞し、理研所長としての業務に専念しました。

理研産業団の設立と発展

大河内は、研究成果を社会に還元することを目指し、1927年（昭和2年）にはピストンリングの研究成果を事業化するため、理化学興業株式会社（後のリケン）を設立しました。同社は日本で初めて実用的なピストンリングの製造を開始し、自動車産業の発展に大きく貢献しました。その後、大河内は76に及ぶ理研グループの会社を設立し、理研産業団を新興財閥の一角を占めるまでに成長させました。

政界での活動と晩年

1915年（大正4年）に貴族院議員に初当選し、1918年（大正7年）には原内閣の海軍省政務次官を務めました。しかし、1930年（昭和5年）には、息子の信威が共産党のシンパとして逮捕されたことをきっかけに貴族院議員を辞職しました。その後、東京物理学校（現在の東京理科大学）の校長や理事長も務めましたが、第二次世界大戦後には戦争犯罪容疑で逮捕され、公職追放となりました。しかし、1951年（昭和26年）には公職追放が解除されました。1952年（昭和27年）8月29日に脳梗塞で亡くなりました。享年73歳。死後、勲二等旭日重光章が追贈されました。

大河内正敏の遺産

大河内正敏は、日本の科学技術の発展に大きく貢献しただけでなく、産業界にも大きな影響を与えた人物です。理化学研究所の基礎を築き、多くの企業を育成した彼の功績は、今もなお高く評価されています。また、その多才な才能は、研究者、実業家、政治家としてのそれぞれの分野で発揮され、後世に大きな影響を与えました。

大河内正敏の生涯は、科学と産業の発展のために尽力した一人の偉大な人物の物語として、後世に語り継がれることでしょう。

家族

実父は大河内正質、妻は松平正和の二女・鋲子。養父は大河内信好で、妻は養父の妹である大河内信古の娘・一子です。長男は共産主義に傾倒した大河内信威、二男は大妻女子大学教授の大河内信定です。また、女優の河内桃子は孫にあたります。

著書

『工業経営総論』
『味覚』

参考文献

齋藤憲 『大河内正敏―科学・技術に生涯をかけた男』
宮田親平 『科学者たちの自由な楽園　栄光の理化学研究所』
『日本科学者伝』- 「大河内正敏」

関連項目

大河内信威
リコー
リケン
理研ビタミン
大河内氏
大河内記念会
日本の十大発明家

もう一度検索