大蔵合戦

大蔵合戦：源氏内紛と坂東武士の激突

久寿2年（1155年）8月16日、武蔵国で繰り広げられた大蔵合戦は、平安時代末期の動乱を象徴する出来事でした。この戦いは、源氏内部の対立と、坂東武士団における複雑な力関係が絡み合った結果、発生しました。

源為義を父とする河内源氏は、摂関家を後ろ盾として勢力を伸ばしていました。一方、為義の長男・源義朝は、都を離れ、南関東に勢力を拡大し、鳥羽上皇の近臣を支持基盤としていました。義朝は、父を超える地位である下野守に任じられ、関東における武家の地位を確固たるものにしました。

為義は、義朝に対抗するため、北関東に次男・義賢を送り込みました。義賢は上野国多胡荘を拠点とし、武蔵国最大規模の武士団を率いる秩父重隆の娘を娶り、武蔵国比企郡大蔵に館を構えました。しかし、重隆自身、甥の畠山重能や父の後妻との間で家督争いを繰り広げており、さらに、新田氏や足利氏ら周辺勢力との抗争も絶えませんでした。

興味深いことに、重隆の対抗勢力である新田氏、足利氏、畠山氏、三浦氏などは、義朝とその長男・義平と同盟関係を築いていました。重隆の父の後妻は、なんと義平の乳母であったのです。義朝は、頼義以来のゆかりの地である鎌倉に館を構え、相模国を地盤としていました。義朝が都に戻った後、その地盤を継いだ義平は、北上を計画します。

義賢と重隆が上野、武蔵の武士団を糾合し南下しようとする動きに対し、義平はこれを阻止しようとしました。そして、久寿2年8月16日、義平率いる軍勢は、大蔵館を奇襲攻撃しました。この襲撃により、義賢と重隆は討ち取られたのです。わずか15歳だった義平は、この戦いで名を上げ、「鎌倉悪源太」と呼ばれるようになりました。

この時、2歳だった義賢の子、駒王丸は、重能の計らいと、斎藤実盛の尽力により、乳母夫である中原兼遠のもとに逃がされました。この駒王丸こそが、後の木曾義仲です。実盛は、大蔵合戦から28年後、篠原の戦いで義仲と再会することになります。

義平の軍事行動が都で問題にならなかったのは、武蔵国司であった藤原信頼の黙認があったためだと考えられています。為義の四男で、義賢と「父子之約」を結んでいた頼賢は、義賢の仇討ちのため東国へ下向しましたが、義朝との衝突は回避されました。しかし、義朝と為義らの対立は、翌年の保元の乱で決着を見ることになります。

大蔵合戦の結果、坂東における義朝・義平親子の地位は盤石なものとなりました。この戦いは、坂東武士団の抗争と、都における鳥羽上皇（義朝方）と摂関家（為義・義賢方）の政治的対立を反映したものであり、保元の乱の前哨戦とも位置づけられます。また、この頃、藤原信頼と義朝の関係が構築されたと考えられています。

現在、埼玉県比企郡嵐山町大蔵には大蔵館跡が残っており、源義賢の墓と伝えられる五輪塔もあります。しかし、大蔵館の所在については、東京都世田谷区大蔵とする説や、世田谷の大蔵が義平の居住地だったとする説もあります。また、埼玉県児玉郡上里町帯刀の福昌寺には、義賢を祀ったとされる五輪塔が存在します。これらの史跡は、大蔵合戦の歴史的意義を今に伝えています。

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