大谷光尊

大谷光尊：明治維新期の浄土真宗を導いた改革者

大谷光尊（1850-1903）は、幕末から明治時代前期にかけて活躍した浄土真宗の僧侶であり、西本願寺第21世門主です。西本願寺第20世門主、大谷広如を父に持ち、幼名は峩と名付けられました。兄妹は皆夭折したため、河内顕証寺から迎えた徳如（光威）を門跡と定め、自身は徳如の養子となりましたが、徳如も早世したため、1868年（明治元年）に光尊は自身で門跡を継承することとなりました。

近代教団の礎を築いた改革者

1872年（明治4年）、父・広如の死去に伴い、21世法主の座を継承した光尊は、明治維新という激動の時代にあって、近代的な教団運営の確立に尽力しました。江戸時代の本末制度に代わる独自の宗制・寺法を制定し、本願寺を頂点とする組織の強化に努めました。

光尊は、宗門の近代化を推進するため、いち早く側近や有望な若手僧侶を海外に留学させました。1875年には島地黙雷と赤松連城をヨーロッパへ派遣し、西洋文明を研究させ、西洋文明に対抗しうる宗教教団のあり方を模索しました。この取り組みは、後に龍谷大学となる学林の改革にも繋がりました。これらの改革は、明治政府に先駆けて日本初の議会である宗会を開設することにも繋がり、後の22世門主、大谷光瑞の宗政へと受け継がれていきました。

財政基盤の確立と社会貢献

明治維新の混乱期において、光尊は教団財産の散逸を防ぐため、欧米の財団システムを参考に本願寺護持財団を設立するなど、財政基盤の強化にも尽力しました。また、北海道での開教活動では東本願寺に遅れをとるものの、海外布教にも力を注ぎ、アジアや欧米に布教拠点を築きました。さらに、軍隊慰問・布教、刑務教誨、社会的弱者への救恤活動など、後の仏教社会事業の基礎を築いたことも特筆すべき功績です。

教学・宗派における功績

光尊は、宗教制度改革においても大きな役割を果たしました。長らく浄土宗との間で論争が続いていた宗派名について、1873年（明治5年）3月、太政官布告により「真宗」を正式な宗派名としました。「一向宗」という俗称も同時に廃止されました。

また、真宗各派が願っていた宗祖親鸞と中興の祖蓮如への天皇からの諡号下賜を熱心に朝廷に働きかけ、明治9年には親鸞に「見真大師」号、明治15年には蓮如に「慧燈大師」号がそれぞれ下賜されました。この功績には、三条実美や岩倉具視といった明治政府要人との深い繋がりがあったと推測されています。

さらに、明治政府の宗教政策である大教院と三条教則に対しては、島地黙雷らと共に批判的な立場を取り、教団の脱退を通じて政府の宗教政策の方向転換を促しました。この運動は、信教の自由を主張したものと従来評価されてきましたが、光尊自身も国家神道に一定の理解を示していたことから、必ずしも思想・信条の自由のみを追求した運動ではなかったという見解もあります。

光尊の晩年とその後

光尊は1876年（明治9年）、宇治川沿いの伏見桃山に別荘「三夜荘」を建築しました。晩年は、数々の功績を残した後に、1903年（明治36年）1月18日にこの世を去りました。しかし、彼の近代的な教団運営や社会貢献への取り組みは、後の浄土真宗の発展に大きく貢献し、現在もその功績は高く評価されています。彼の功績は、西本願寺の発展に多大なる影響を与え、現代の真宗のあり方にも繋がる重要な出来事でした。 光尊の死後、贈従一位が追贈され、伯爵の爵位も授与されました。彼の妻は、大谷光勝の娘でした。光尊の子孫には、大谷光瑞（鏡如）、大谷光明（浄如）、大谷尊由、九条武子、木辺孝慈などがいます。

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