大迫忍

大迫忍：実業家、馬主、そして北九州の顔

大迫忍（おおさこ しのぶ）氏は、1945年8月13日、中国・北京市で生まれ、大分県宇佐市で育ちました。1968年に中央大学文学部を卒業後、父が創業した善隣出版社（後の株式会社ゼンリン）に入社。持ち前の行動力と先見性を武器に、ゼンリンの事業拡大に大きく貢献しました。

1980年、創業者の父・大迫正冨氏が急逝。若くして社長の座を引き継いだ大迫氏は、徹底した実地調査に基づくデータベース化を推進。電子地図やカーナビゲーションシステムといった、当時としては画期的な事業を次々と展開しました。その結果、ゼンリンは住宅地図業界でトップの座を獲得し、カーナビゲーションソフト業界においても主要企業へと成長を遂げ、海外進出も果たすまでに至りました。1994年には福岡証券取引所、1996年には東京証券取引所と大阪証券取引所の2部に上場を果たすなど、辣腕経営者としての地位を確立しました。

「長期政権は弊害を生む。55歳で引退する」という信念のもと、2001年には社長を退任。その後も、北九州経済の発展に尽力しました。小倉そごう跡地への小倉伊勢丹誘致や、北九州空港の運営会社である北九州エアターミナル社長への就任など、精力的に活動。更には、新規航空会社スターフライヤーの設立支援にも携わり、北九州地域経済の活性化に大きな役割を果たしました。

大迫氏は、経営者としてだけでなく、人望の厚い人物としても知られていました。中央大学在籍時には柔道部に所属し、日本拳法五段、囲碁二段の腕前を持つなど、多才な一面も持ち合わせていました。また、愛車はホンダ・NSXという、その個性的な一面も垣間見ることが出来ます。

私生活では、熱心な馬主としても知られていました。日本中央競馬会（JRA）に登録し、「ゼンノ」「ビコー」という冠名で多くの競走馬を所有。勝負服は黄色のジャケットに緑色の袖という独特のデザインでした。

2001年には所有馬ゼンノエルシドがマイルチャンピオンシップを制し、GI競走初制覇を達成。2004年にはゼンノロブロイが天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念の3冠を達成するなど、数々の栄光を手にしました。これはテイエムオペラオーに次ぐ史上2頭目の快挙でした。

ゼンノロブロイの活躍は、大迫氏の馬主としての情熱と、高い見識を示すものでした。しかしながら、大迫氏は2005年6月18日、肝臓の病により59歳の若さで亡くなりました。北九州空港の開港を見ることなく、惜しまれつつその生涯を閉じました。

大迫氏の死後、妻である大迫久美子がゼンリンの筆頭株主となりましたが、同氏の遺言により、ゼンリンの経営は息子たちではなく、社内から選ばれた人物に引き継がれました。「同族経営は何れ弊害を生む」という大迫氏の信念が、その意思決定に反映されていると言えるでしょう。

大迫忍氏は、実業家として、馬主として、そして北九州経済の発展に貢献した人物として、その名を残しています。彼の功績は、日本の経済史、そして競馬史においても重要な一ページを刻んでいると言えるでしょう。NHKのプロジェクトXにも出演するなど、その活躍ぶりは多くの人々の記憶に刻まれています。彼の生き様は、後世へと語り継がれていくことでしょう。

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