大野城 (筑前国)

大野城（おおのじょう）

福岡県太宰府市、大野城市、糟屋郡宇美町にまたがる大城山に築かれた大野城は、古代日本の山城として知られています。1953年には国の特別史跡に指定され、その歴史的価値が認められました。

概要

大宰府政庁の背後に位置する標高410mの四王寺山（大城山）に築かれた大野城は、馬蹄形の尾根に沿って土塁と石塁が巡り、その外周は約6.8kmに及びます。南側と北側は二重の土塁で守られ、総延長は8.4kmにもなります。東西約1.5km、南北約3kmの広大な城域は、日本最大級の古代山城です。城門は太宰府口など9か所あり、谷部には排水を考慮した百間石垣や屯水石垣が設けられています。大野城市の市名はこの大野城に由来し、2006年には日本100名城にも選ばれました。

調査・研究

発掘調査により、太宰府口城門が三期に渡って建て替えられたことが判明しました。また、北石垣城門は前面に段差を設けた懸門構造であり、門柱の軸受け金具が国内で初めて出土しました。城内では約70棟の建物跡が確認され、主城原礎石群など8か所に分布しています。これらの建物は倉庫と考えられ、墨書土器や瓦、炭化米などの遺物も出土しています。

大野城の研究は、1926年の島田二郎による発表を皮切りに、1950～1960年代には鏡山猛が調査を行いました。1973年からは九州歴史資料館が発掘調査を実施し、その成果は福岡県教育委員会から報告書として刊行されています。2003年には豪雨による土砂災害が発生し、その後6年間にわたり復旧工事が行われました。この際、土塁の基底部に列石が存在することが判明し、古代の築城技術の一端が明らかになりました。

大野城を含む九州や瀬戸内海の城は、7世紀後半に一体的かつ計画的に築かれた国家的な事業であることが示唆されています。初期には「神籠石」と「古代山城」という二つの分類で議論されてきましたが、近年ではこれらの区別は学史的な用語として扱われ、共通の視点で研究が進められています。また、古代山城は軍事的な役割だけでなく、地方統治の拠点としての機能も持っていたと考えられています。

関連の歴史

『日本書紀』には「大野と椽の二城を築いた」という記述があり、『続日本紀』には大野、基肄、鞠智の三城を修復したという記述があります。これらの記録から、大野城は白村江の戦い後、大和朝廷が防衛のために築いたことがわかります。665年には、亡命百済人の憶礼福留と四比福夫が建設に携わったとされています。大野城は、唐や新羅の侵攻に備え、対馬から九州北部、瀬戸内海、畿内へと続く防衛体制の一翼を担いました。また、大宰府都城の外郭を形成し、百済の泗沘都城の影響を受けていると考えられています。

『万葉集』や『風土記』には、この山は「大野山」や「大城山」と記されています。白村江の戦いとその後の防御施設設置に関する記事は以下の通りです。

663年：白村江の戦いで倭・百済復興軍が唐・新羅連合軍に大敗。
664年：対馬、壱岐、筑紫に防人と烽を配置し、筑紫に水城を築く。
665年：長門に城を築き、筑紫に大野城と基肄城を築く。
667年：大和に高安城、讃岐に屋嶋城、対馬に金田城を築く。中大兄皇子が大津に遷都し、翌年天智天皇となる。

その他

大野城跡の約8割は宇美町に属し、百間石垣や増長天礎石群などの遺構があります。増長天礎石群は内周土塁沿いに位置する四棟の建物跡で、見学者のために復元イラストの説明板が検討されています。2013年から2015年にかけては、「水城・大野城・基肄城1350年記念事業」が展開され、関係自治体や民間団体が連携して様々な記念事業が実施されました。

四王寺山の名称は、774年に外敵駆逐を祈願して建立された四王寺（四天王寺）に由来します。その後、伽藍は毘沙門堂へと変遷し、12世紀には多くの経塚が、18世紀末には三十三観音像が山内に安置されました。

現地情報

大野城跡は「福岡県立四王寺県民の森」として整備されており、遊歩道や駐車場、休憩所などが設けられています。西鉄太宰府駅から車で約15分、徒歩約50分。JR宇美駅からは車で約15分。九州自動車道太宰府ICから約6kmの距離にあります。

関連項目

日本の城一覧
日本の特別史跡一覧
善一田古墳群 - 大野城の築城に関わった人々の墓とされています。

参考文献

文化庁文化財部 監修 『月刊 文化財』　631号（古代山城の世界）、第一法規、2016年。
小田富士雄　編 『季刊 考古学』 136号（西日本の「天智紀」山城）、雄山閣、2016年。
九州歴史資料館 編集/発行 『特別史跡 大野城跡』（大宰府史跡ガイドブック 2）、2015年。
都府楼編集委員会 『都府楼』 47号（大野城・基肄城 築造1350年記念）、古都大宰府保存協会、2015年。
西谷正 編 『東アジア考古学辞典』、東京堂出版、2007年、ISBN 978-4-490-10712-8。
小島憲之 他 項注・訳 『日本書紀 ③』、小学館、1998年、ISBN 4-09-658004-X。
齋藤慎一・向井一雄 著 『日本城郭史』、吉川弘文館、2016年、ISBN 978-4-642-08303-4。
向井一雄 著 『よみがえる古代山城』、吉川弘文館、2017年、ISBN 978-4-642-05840-7。

外部リンク

大野城跡ー九州歴史資料館
大野城跡ー宇美町
大野城跡ー大野城市

もう一度検索