鬼丸

概要

鬼丸は、鎌倉時代初期に山城国（現在の京都府）の刀工、粟田口国綱によって作られた太刀です。国綱は後鳥羽天皇の御番鍛冶を務めた名工で、その卓越した技術は鎌倉にも知れ渡っていました。

鬼丸という名前の由来は、『太平記』に記されています。北条時頼（または時政）が毎夜、小鬼の夢に悩まされていたところ、夢に老翁が現れて「私は粟田口国綱の太刀の化身だ。錆びて鞘から抜け出せない。清浄な者に手入れをしてほしい」と告げました。時頼が刀を手入れし、寝床の側に立てかけたところ、刀が倒れて火鉢の足についていた鬼の細工を切り落としたというのです。それ以来、小鬼の夢は見なくなり、この出来事から太刀は「鬼丸」と名付けられました。

不吉の太刀としての歴史

鬼丸は、北条得宗家の重宝として代々伝えられましたが、元弘の乱で北条高時が自害した際、新田義貞の手に渡りました。しかし、義貞も足利尊氏との戦いで討たれ、鬼丸は斯波高経の手に。その後、高経は尊氏に降伏する際に鬼丸を献上しました。

その後、足利家の重宝となり、足利義昭から織田信長、豊臣秀吉へと所有者が変わったとされています。秀吉は刀剣愛好家として知られていましたが、鬼丸を童子切安綱とともに本阿弥光徳に預けました。これは、歴代の所有者が戦に敗れたり、没落しているため、その不吉さを避けたためとも言われています。大坂の陣の後、鬼丸は徳川家の所有となりましたが、徳川家康と秀忠も本阿弥家に預けたままにしました。

後水尾天皇の皇太子が誕生した際に献上されたものの、程なく皇太子が夭折したため、「不吉な太刀」と噂され、本阿弥家に戻されました。江戸時代には本阿弥家が保管していましたが、徳川吉宗の命で江戸城に持ち込まれた記録もあります。『享保名物帳』にも記録されており、松平定信の『集古十種』にも「本阿弥三郎兵衛代々所守護」と記されています。

明治以降

明治維新後、鬼丸の所有権が曖昧になったため、本阿弥家が新政府に届け出ました。1881年（明治14年）、「後水尾天皇に献上されたものを徳川幕府が本阿弥家に預けていたもの」として、明治天皇の元に召し上げられ、以来皇室の御物となりました。天下五剣の中で唯一御物であるため、国宝や重要文化財には指定されていません。

御物としての性格上、一般公開される機会は非常に限られており、書籍などに掲載されている写真も、過去の公開時に撮影された古いものがほとんどです。過去には、以下の機会で一般公開されました。

「日本名刀展 英米からの里帰りと国内の名作」（大丸東京店。1970年）
「日本美術名宝展」（東京国立博物館、京都国立博物館。1986年）
特別展「日本のかたな」（東京国立博物館。1997年）
特別展「正宗」（佐野美術館、富山県水墨美術館、徳川美術館、根津美術館巡回。2002年）

作風

刀身

刃長は約78.2センチメートル、反りは約3.2センチメートルです。鎌倉時代に入り、太刀の反りが大きくなった時期の作であり、特に反りが大きいのが特徴です。地鉄はよく約み、地沸がつき、地斑映りが立っています。刃文は沸出来で、広直刃調の小丁子乱れで、腰刃を焼いています。目釘孔は一つで、棟寄りに「国綱」の二字銘があります。

外装

鞘と柄は茶色の皺革で覆われ、金茶色の平糸巻きが施されています。鍔は黒漆塗りの革袋で覆われた「革包太刀」様式の拵が付属しており、室町時代初期の製作とされています。この拵は「鬼丸拵」と呼ばれ、「革包太刀拵」の代名詞となっています。

鬼丸は、その名と歴史、そして美しい姿から、多くの人々を魅了する名刀です。

脚注

注釈

出典

参考文献

小和田泰経『刀剣目録』新紀元社、2015年6月12日。ISBN 4775313401。
博学こだわり倶楽部編集『日本刀 妖しい魅力にハマる本』河出書房新社、2014年。ISBN 978-4-309-49902-4。
杉浦良幸『知っておきたい日本の名刀』ベストセラーズ、2015年6月。ISBN 9784584136553。
東由士『刀剣物語』英和出版社、2015年9月15日。ISBN 9784865452013。

関連項目

日本刀一覧
天下五剣
鬼切安綱 - 伯耆国安綱によって作られた日本刀。別名鬼切丸、髭切。新田義貞が鬼丸と併せて合戦時に佩いたとされる。
北条時行 - 中先代の乱を起こした武将。『太平記』では鬼丸の所持者だったとされることがある。

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