天与清啓

天与清啓：室町期の禅僧、二度の遣明使としての足跡

天与清啓（てんよ せいけい）は、室町時代に活躍した臨済宗の禅僧です。生没年ははっきりとしていませんが、建仁寺の第191世住持を務めたことは記録に残っています。彼の名が歴史に刻まれているのは、二度にわたる遣明使としての活動です。特に二度目の渡明では、正使として画僧の雪舟らを伴い、明国との文化交流に大きく貢献しました。法諱は清啓、道号を天与と称し、海樵老人や万里叟といった別号も持っていました。また、『万里集』という著作も残しています。

生い立ちと出家

天与清啓は信濃国伊那郡（現在の長野県）の豪族、知久心源の子として生まれました。幼少の頃、伯父である伯元清禅に従い、地元の法全寺で出家。その後、京都に上り、臨済宗大鑑派の建仁寺禅居庵に入りました。禅居庵で修行を重ね、やがてその法を継承し、建仁寺禅居庵の塔主となります。

遣明使としての活躍

宝徳2年（1450年）に故郷である信州伊那谷へ一時帰郷しますが、翌年には東洋允澎を正使とする遣明使の一員として、初めて明国へ渡ります。この際、代宗皇帝（景泰帝）との謁見を強く求め、強気な交渉を行った様子が『村庵稿』などに記録されています。帰国後、その功績により能登安国寺の住持（諸山）に任じられ、康正元年（1455年）には故郷の信濃国伊那郡開善寺（十刹）の住持に昇格しました。

寛正元年（1460年）には、室町幕府から遣明正使に任命され、再び上洛。同年、遣明正使就任の功により、建仁寺191世住持となりました。寛正3年（1462年）に小笠原持長の死去に伴い帰郷し、幕府からの上洛の催促にも関わらず、三年近くを郷里で過ごします。上洛後、寛正5年（1464年）に渡明の準備のために周防国を訪れますが、様々な事情により渡明が大幅に遅れ、一年ほどを西国で足止めされることとなりました。その間、大内氏と関係の深い仁保弘有や雪舟らと親交を深めたと考えられています。博多聖福寺に滞在しつつ出立の時を待ち、寛正7年/文正元年（1466年）になってようやく博多を出航し、明国へと向かいました。

この時の遣明船は三隻からなり、一号船は幕府船、二号船は細川氏、三号船は大内氏の船でした。応仁2年（1468年）に北京に到着し、憲宗皇帝（成化帝）に謁見、将軍足利義政の親書を奉呈しました。しかし、入明中には随員の一人が殺傷事件を起こし、その免罪を皇帝に請願したり、貢物の刀剣の価格を巡って官僚と激しく議論し、皇帝が仲裁に入るなど、正使としての役目は決して穏やかなものではありませんでした。

文明元年（1469年）に帰国しますが、折悪しく応仁の乱の最中であり、博多に帰港することができず、土佐へ漂着。結局、上洛も叶わず、正式な帰国報告をすることもできないまま、故郷の法全寺に隠棲し、公の場から姿を消すこととなりました。

文化的交流と評価

天与清啓は詩文にも優れ、瑞渓周鳳、天隠龍沢、希世霊彦といった五山僧との親交も深く、周囲からの信頼も厚かったとされています。相国寺の瑞渓周鳳は、天与を清拙正澄を派祖とする臨済宗大鑑派を背負って立つ逸材と評しました。二度の遣明使としての活動を通じ、文化交流に尽力した天与清啓は、室町時代の禅宗界において重要な役割を果たした人物として記憶されています。

参考文献

信濃史料刊行会編『信濃史料』第八巻（1961年）
信濃史料刊行会編『信濃史料』第九巻（1960年）
熊谷宣夫「戊子入明と雪舟（上）（下）」（『美術史』23・25号、1957年）
玉村竹二『日本禅宗史論集』（思文閣、1981年）
玉村竹二『五山禅僧伝記集成』（講談社、1983年）
宮島新一「吉川家蔵　伝雪舟筆天与清啓賛「湖亭春望図」について」（『museum』471号、1989年）
伊川健二「『戊子入明記』に書かれた遣明船」（『古文書研究』53号、2001年）
国立歴史民俗博物館編『中世寺院の姿とくらしー密教・禅僧・湯屋』（2002年）
* 飯田市美術博物館編『中世信濃の名僧　知られざる禅僧たちの営みと造形』（2005年）

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