天京事変

天京事変：太平天国を揺るがした内乱

天京事変は、1856年に太平天国の首都、天京（現在の南京）で発生した指導部間の内紛です。この事件は、太平天国の勢力衰退を招く大きな転換点となりました。事変では、東王楊秀[[清]]、北王韋昌輝、燕王秦日綱といった主要な指導者が命を落とし、2万人以上の人々が殺害されました。

事変の背景

1851年、天王洪秀全が太平天国を建国した際、東王楊秀[[清]]は他の四王よりも上位に位置づけられました。南王馮雲山と西王蕭朝貴が戦死すると、楊秀[[清]]への権力集中はさらに加速しました。太平天国では、軍師が実権を握る体制が敷かれており、天王である洪秀全も、実際には正軍師である楊秀[[清]]の指示に従うことが多くなっていました。楊秀[[清]]はしばしば「天父下凡」（神の啓示）と称して神託を発し、その権威は絶対的なものとなっていきました。

天京遷都後、楊秀[[清]]は北王韋昌輝、燕王秦日綱、さらには翼王石達開の妻の父である黄玉崑を杖刑に処すなど、他の王たちとの対立を深めていきました。これにより、指導部内の不和は深刻化していったのです。

事変の経過

1856年6月20日、太平天国軍は清軍の江南大営を撃破し、3年にわたる包囲を解きました。この勝利を機に、楊秀[[清]]はさらなる権力掌握を企てます。楊秀[[清]]は「天父下凡」を理由に洪秀全を東王府に呼び出し、「お前と楊秀[[清]]は共に我が子である。楊秀[[清]]は功績が大きいのに、なぜ九千歳なのか」と迫りました。当時の中国では「万歳」は皇帝のみが称することができたため、洪秀全は「楊秀[[清]]にも万歳を称させよう」と答えるしかありませんでした。

この動きに対し、以前に楊秀[[清]]から処罰を受け恨みを抱いていた陳承瑢が、洪秀全に対し「楊秀[[清]]に簒奪の意思あり」と訴えました。洪秀全は、当時戦線に出ていた韋昌輝、石達開、秦日綱に楊秀[[清]]排除の密詔を送ります。9月1日、韋昌輝は3千の兵を率いて天京に戻り、秦日綱と合流。陳承瑢が城門を開け、軍は一斉に東王府を襲撃し、楊秀[[清]]とその一族、部下2万人を殺害しました。

9月26日、石達開が天京に戻り、韋昌輝の残虐な行為を非難すると、韋昌輝は石達開の一族を殺害しようとしました。しかし、石達開は辛くも脱出に成功し、安慶で挙兵し、洪秀全に韋昌輝の処罰を求めます。天京城外の兵士の多くが石達開を支持し、11月2日、韋昌輝は殺害されました。その後、秦日綱と陳承瑢も処刑され、天京事変は一旦終結しました。

しかし、後に洪秀全は楊秀[[清]]の罪を取り消し、彼の命日を「東王昇天節」と定めました。この事実は、洪秀全の優柔不断さを示すものとして、太平天国の人心をさらに動揺させました。

事変の影響

天京事変後、太平天国は深刻な内部分裂に陥り、軍事的な優位も失いました。韋昌輝の死後、石達開が執政を始めましたが、洪秀全は自らの親族を重用し、石達開を牽制したため、石達開は1857年に大軍を率いて離脱します。この石達開の離脱は、太平天国にとって大きな痛手となり、その衰退を加速させる一因となりました。

天京事変は、太平天国の内部抗争が組織をいかに脆くするかを示す典型的な事例と言えます。指導者たちの権力闘争は、太平天国の瓦解を招き、歴史の教訓として語り継がれることとなりました。

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