天女と漁夫

「天女と漁夫」は、作曲家・橋本國彦が手がけた管弦楽によるバレエ音楽であり、日本舞踊家・花柳寿美の依頼によって作曲されました。初演は1932年10月13日、日比谷公会堂にて開催された「曙会」の新作発表会で行われました。

この作品は、橋本が日本舞踊のために作曲した一連の舞踏音楽の一つで、花柳寿美のためには、他にバレエ音楽「吉田御殿」（1931年）や、ピアノ独奏曲「三枚繪」（1934年）なども作曲しています。

台本は、蘆原英了が羽衣伝説を基に書き下ろしました。物語は、海岸で漁夫が天女の羽衣を見つけたことから始まり、羽衣を取り戻そうとする天女の踊り、そして羽衣を手にした天女が天へと昇っていく様子が描かれています。音楽には、印象主義音楽の影響が色濃く見られ、評論家の片山杜秀は「デュカスやピエルネの作風と、日本の伝統的な歌や踊りの雰囲気が見事に調和している」と評しています。

初演後、橋本自身によって演奏会用の交響組曲が編纂されました。この組曲は、橋本が東京音楽学校の講師に就任した翌年に完成し、その後、橋本自身が指揮者として、交響曲第1番とともに繰り返し演奏しています。演奏時間は約20分で、以下の楽曲が切れ目なく演奏されます。

序奏
黎明
漁夫たちの踊り
漁夫の独舞
漁夫と天女の踊り
天女の舞
* 天女の昇天

編成は、フルート3、オーボエ2、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、打楽器（四つ竹、邦楽の大太鼓と小太鼓を含む）、弦五部からなり、多彩な音色で物語を彩ります。

「天女と漁夫」は、日本の伝説を題材にしたバレエ音楽でありながら、西洋の音楽技法を巧みに取り入れた、橋本國彦の代表作の一つと言えるでしょう。その美しい旋律と、ドラマティックな展開は、聴く者を魅了します。

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