天活玉命

天活玉命（あめのいくたまのみこと）は、日本神話に登場する神であり、『日本書紀』では生霊神（いくたまのかみ）、『先代旧事本紀』では活玉命（いくたまのみこと）の別名で記されています。この神は、八神殿においても重要な神として祀られており、その存在は古くから重視されていました。

『古事記伝』においては、活杙神（いくくいのかみ）と同神であるとする説も唱えられており、神話における多様な解釈が存在することが伺えます。『先代旧事本紀』によれば、天活玉命は饒速日命（にぎはやひのみこと）に随行した三十二神の一柱であり、新田部直（にたべのあたい）の祖であるとされています。また、『新撰姓氏録』では、恩智神主（おんじのかんぬし）の祖としても伝えられており、古代氏族との深い繋がりが示唆されています。

『日本書紀』には、壬申の乱における興味深い逸話が記録されています。高市郡大領の高市県主許梅（たけちのあがたぬしこめ）が突然言葉を発することができなくなり、三日後に神がかりの状態になった際、「吾は高市社（たけちやしろ）にいる事代主（ことしろぬし）であり、また身狭社（むさやしろ）にいる生霊神である」と名乗ったと伝えられています。さらに、神は「神日本磐余彦天皇（かむやまといわれひこすめらみこと）の陵に馬と種々の兵器を奉れ」「吾は皇御孫尊（すめみまのみこと）の前後に立って不破（ふわ）まで送り奉ってから還った。今また官軍の中に発ってこれを守護する」と述べ、加えて「西道より軍衆が至ろうとしている。警戒せよ」と神託を下したとされています。この神託は、当時の政治情勢や戦乱における神の役割を示唆するものであり、天活玉命が単なる神話上の存在ではなく、人々の生活や国家の命運にも影響を与えていたことがわかります。

この生霊神が依り憑いた高市県主・高市連（たけちのむらじ）は、『古事記』や『新撰姓氏録』において、天照大御神（あまてらすおおみかみ）の子である天津日子根命（あまつひこねのみこと）の後裔であるとされています。この系譜は、天活玉命が古代の有力氏族と結びつき、その信仰が広まっていった背景を示していると考えられます。

天活玉命は、以下のような神社で祀られています。

八神殿
生国魂神社（奈良県橿原市大久保町）
石上神宮　境内　七座社（奈良県天理市布留町）
祝神社（長野県長野市松代町）
須須岐水神社（長野県千曲市大字屋代）
八所神社（新潟県胎内市）
菅原神社（新潟県上越市清里区）
高瀬神社（富山県南砺市高瀬）
気多大社（石川県羽咋市寺家町）- かつて祭神とされていた
物部神社（島根県大田市川合町）
御霊神社（神奈川県藤沢市羽鳥三丁目）
大宮神社（和歌山県岩出市宮）
八保神社（兵庫県赤穂郡上郡町）
備中国総社宮（岡山県総社市総社）
厳島神社（広島県廿日市市宮島町）
大麻神社（香川県善通寺市大麻町）
* 岡田宮（福岡県北九州市八幡西区）

これらの神社は、天活玉命が地域の人々にとって重要な存在であり、その信仰が広範囲に及んでいたことを物語っています。

関連する項目としては、足産霊神（たるむすびのかみ）、八十島祭（やそしままつり）などが挙げられます。これらの神々や祭りは、天活玉命の信仰と関連があり、日本の古代信仰の複雑さを物語っています。天活玉命は、その多面的な性格と歴史的な背景から、日本の神々の中でも特に興味深い存在と言えるでしょう。

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