天草陶石

天草陶石とは

天草陶石（あまくさとうせき）は、熊本県天草下島で採掘される、陶磁器の原料となる粘土質の鉱石です。この陶石は、日本の陶磁器産業において非常に重要な役割を果たしており、国内で産出される陶石の約8割を占めています。天草陶土、または天草石とも呼ばれます。

天草陶石の性質

天草陶石は、粉砕して水を加えることで、非常に可塑性の高い粘土になります。特筆すべきは、他の添加物を必要とせずに均一に焼結し、高品質な磁器を製造できる点です。また、チタンや鉄といった不純物が少ないため、焼成後の製品は美しい白色を呈し、優れた電気絶縁性も備えています。これらの特性から、白磁や高電圧用碍子の主原料として最適です。

主成分構成

天草陶石の主成分は以下の通りです。

二酸化ケイ素（SiO2）：78-80%
酸化アルミニウム（Al2O3）：13-14%
酸化カリウム（K2O）：3%

鉱物組成

鉱物組成としては、数10マイクロメートルの粒径を持つ石英、20-100マイクロメートルの薄片状の絹雲母、そして10マイクロメートルの粒径のカオリナイトが主成分です。その他、ディッカイト、レクトライト、トスダイトを含むものもあります。

天草陶石の分布と生成

天草陶石の鉱床は、主に天草下島の西部に分布しています。その中でも最大の鉱脈は皿山脈と呼ばれ、長さ4キロメートル、最大幅25メートルにも及ぶ規模を誇ります。他にも海岸脈や村山脈といった鉱脈が存在します。

これらの鉱床は、古第三紀に形成された坂瀬川層群や上島層群、そして白亜紀に形成された姫浦層群に貫入した流紋岩が、中新世の熱水作用によって変質し、粘土化したものです。この地質学的プロセスが、天草陶石特有の性質を生み出しました。

天草陶石の歴史

天草陶石は、17世紀後半に発見されました。当初は砥石として利用されていましたが、18世紀初期からは陶磁器の原料としても使用されるようになりました。その品質が広く認識されるようになったのは、1903年（明治36年）のことです。白磁の原料として非常に優れていることが判明し、日本陶器合名会社（現在のノリタケカンパニーリミテドやTOTO）の設立に大きく貢献しました。しかし近年、採掘が進むにつれて、良質な鉱石の産出量は減少傾向にあります。

まとめ

天草陶石は、その独特な組成と特性から、日本の陶磁器産業を支える上で不可欠な資源です。高品質な磁器の製造には欠かせない存在であり、その歴史と地質学的背景は、陶磁器の技術発展を理解する上で重要な要素となっています。今後も、この貴重な資源を有効に活用していくための技術革新が求められます。

参考資料

大西政太郎『陶芸の釉薬 : 理論と調製の実際』（新）理工学社、2000年。ISBN 4-8445-8581-9。
* 日本粘土学会 編『粘土ハンドブック』（第3）技報堂出版、2009年、881-886頁。ISBN 978-4-7655-0034-0。

もう一度検索