太田嘉四夫

太田嘉四夫：動物学者・生態学者の生涯

太田嘉四夫（おおた かしお、1915年4月11日 - 1994年3月16日）は、日本の動物学者、生態学者です。特にネズミ類の生態研究において多大な功績を残しました。

略歴

1915年、太田嘉四夫は静岡県伊東市に生まれました。宮城県仙台第二中学校（現・宮城県仙台第二高等学校）を卒業後、北海道帝国大学に進学。学生時代は山岳部に所属し、北千島への渡航や利尻岳冬季初登攀などの記録を打ち立てました。

1938年に北海道帝国大学農学部農業生物学科動物分科を卒業。犬飼哲夫教授の指導を受けました。卒業後は山口県の日本水産研究所にて、藤永元作博士のもとでクルマエビの養殖事業に従事しました。

1939年、陸軍に召集され中国から南方戦線を転戦。1943年、インパール作戦開始直前にビルマで召集解除となり帰国。日水研に復職し、船底付着生物の研究に従事しました。このフジツボ類の研究が、後の彼の生態学研究の原点となりました。

1945年12月、北海道大学農学部応用動物学講座助手となり、ネズミ類の生態研究を開始。当初はイエネズミ類のすみ分け研究から始め、その後はノネズミ類の分布、すみ分け、種間競争などの生態研究へと発展させました。1950年代の生態学会におけるすみ分け論争では、理論家として重要な役割を果たしました。また、学園民主化のため農学部助手会結成にも参加しました。

1946年には北海道大学職員組合結成に参画し、副委員長に就任。1947年、北海道大学農学部応用動物学講座講師となります。

1950年、北大イールズ事件（学園のレッド・パージ勧告のために米国からイールズ博士が派遣された事件）において、北海道大学職員組合委員長として統一行動を組織し、イールズ博士を追い返すという行動に出ました。

1951年末には、モチ代よこせ事件（朝鮮戦争を背景とした石炭・食料不足から発生した自由労務者の座り込み事件）において、特別弁護人を務めました。

1952年1月、札幌での白鳥事件（白鳥警部が射殺された事件）に関与した疑いをかけられ、休職処分となりますが、後に復職を果たします。1956年、札幌藻岩山に調査地を設け、10年間に及ぶ研究を実施しました。1957年、地裁判決で有罪となり逮捕、その後控訴。

1958年、北海道東部の国有林に実験柵を設置し、野外実験を開始しました。1962年、北海道大学より農学博士の学位を取得。学位論文の題は「北海道産ネズミ類の生態的分布の研究」でした。1964年、高裁判決で控訴棄却、上告。1966年、最高裁で上告棄却となり、北海道大学を失職します。

1968年、北海道大学農学部演習林講師として再雇用され、1970年には同演習林助教授、1979年には教授に昇進。1979年3月に北海道大学農学部演習林を退職しました。1994年3月16日、78歳で逝去。

家族

太田の父方の祖父は太田惣五郎、祖母は太田いと。叔父に医学者・文学者の木下杢太郎（本名太田正雄）と、復興局疑獄事件で自殺した鉄道技術者の太田圓三がいます。太田の一族には社会運動や左翼運動に関わった人物も多く、少年期から父が仙台の太田正雄（木下杢太郎）東北帝国大学教授に預けたというエピソードが残されています。

著書

太田嘉四夫 (1984), 北海道産ネズミ類の研究, 編著 北海道野ネズミグループ執筆, 北大図書刊行会

論文

太田嘉四夫 (1969), “犬飼哲夫・木下栄次郎・井上元則・相沢保及び太田嘉四夫の哺乳類研究について”, 哺乳類科学 (日本哺乳類学会)

参考文献

阿部永 (1994), “太田嘉四夫先生を悼む”, 日本生態学会誌
小林恒明 (1979), “太田嘉四夫先生の退官に寄せて”, 哺乳類科学 (日本哺乳類学会)

外部リンク

野田宇太郎 (1955), “木下杢太郎とその兄姉 : 太田圓三に就て”, 成城文藝 (成城大学)
明神勲, 北大イールズ事件

太田嘉四夫は、その研究活動のみならず、社会的な活動においても強い信念を持ち続けました。彼の生涯は、学問への情熱と社会への貢献が両立しうることを示しています。

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