太田垣氏

太田垣氏（おおたがきし）

太田垣氏は、日本の歴史において、但馬国（現在の兵庫県北部）に根ざした有力な国人領主として知られる武家です。その出自は日下部氏の一族に連なるとされ、但馬の中心的な要衝である竹田城を本拠地としていました。

山名氏配下としての興隆

太田垣氏の名が歴史に現れるのは、室町時代中期の出来事からです。嘉吉元年（1441年）に起こった嘉吉の乱では、当時の当主とされる太田垣光景が、主君であった山名氏の配下として、乱の原因となった赤松氏を討伐する戦いで大きな功績を挙げました。この働きにより、山名氏のもとで播磨国（現在の兵庫県南西部）の守護代に任じられるなど、一定の地位を得ました。

その後、嘉吉3年（1443年）には、有力守護大名であった山名宗全から、但馬国の重要拠点である竹田城の守備を命じられます。これ以降、太田垣氏は竹田城を居城とし、但馬における勢力の中心地としました。

応仁元年（1467年）に始まる応仁の乱では、太田垣氏も山名宗全率いる西軍に従って参戦します。この戦乱の最中、西軍と対立する東軍側の丹波国（現在の京都府中部・兵庫県東部）守護であった細川氏の勢力が但馬国へ侵攻を試みました。しかし、太田垣氏は国境付近の夜久野ヶ原（現在の京都府福知山市）でこれを迎え撃ち、激しい戦いの末に敵勢力を撃退することに成功します。この功績は山名氏内部での地位を一層確固たるものとし、太田垣氏は但馬の有力国人である垣屋氏、八木氏、田結庄氏と共に、山名四天王と称されるほどの勢力を築き上げました。

但馬国政への関与と織田氏との接触

永正9年（1512年）には、太田垣氏を含む山名四天王は、当時の但馬守護であった山名致豊に反旗を翻すという行動に出ます。そして、致豊の弟である山名誠豊を新たな守護として擁立することで、但馬国の領国経営における実質的な権力を掌握しました。この出来事は、太田垣氏が単なる山名氏の家臣という立場を超え、但馬国全体の政治情勢に大きな影響力を持つ存在となっていたことを示しています。

戦国時代後期、畿内における織田信長の勢力が拡大する中で、但馬国の情勢も変化を迎えます。永禄12年（1569年）、当時の但馬守護・山名祐豊が、毛利氏の支配下にあった尼子氏の旧領への侵攻を画策する気配を見せました。これに対し、毛利氏の要請を受けた織田信長は、将軍足利義昭を奉じて畿内を席捲しつつあった配下の羽柴秀吉（後の豊臣秀吉）を但馬へ派遣しました。この圧力に対し、山名祐豊や、太田垣氏の当主であった太田垣輝延（「輝」の字は将軍足利義輝から賜ったものと推測されます）ら但馬の国人衆は、織田氏に服従の姿勢を示しました。

毛利氏との連携と太田垣氏の没落

織田信長が足利義昭を追放してさらに強大な権力を持つようになると、これに脅威を感じた毛利氏との関係は急速に冷え込みます。天正3年（1575年）、毛利氏の有力武将である吉川元春は、それまで敵対関係にあった太田垣氏をはじめとする但馬国の国人衆の多くと和睦を結びました（これを「芸但和睦」と呼びます）。これは、織田氏に対抗するための連携強化を目的としたものでした。

しかし、この毛利氏との動きに対し、織田信長は再び羽柴秀吉を中国地方攻略のために派遣しました。秀吉は但馬国にも侵攻し、太田垣氏の本拠である竹田城を再び攻撃しました。度重なる戦乱の中で疲弊していた太田垣氏は抗しきれず、竹田城はついに落城し、太田垣氏は戦国大名としての地位を失い没落しました。

竹田城落城後、当主であった太田垣輝延は、播磨国へと落ち延びたと伝えられています。また、輝延の嫡男であった新兵衛は、但馬国の白岩（現在の兵庫県養父市吉井地区）という地に逃れ、そこに小さな砦を築きました。彼はその土地の名にちなんで「白岩」と姓を改め、太田垣の姓を隠すことで身を潜め、同地でひっそりと隠遁生活を送ったとされています。これにより、戦国大名としての太田垣氏は歴史の表舞台から姿を消しました。

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