夷堅志

『夷堅志』について

『夷堅志』（いけんし）は、南宋時代の1140年代に書かれた志怪小説集で、著者は洪邁です。この書は1198年頃に完成し、206巻から構成されています。志怪小説とは、奇異な事象や神話、妖怪に関する物語を収めた作品を指します。『夷堅志』には、神仙や鬼怪、さまざまな風習や宋の人々の異聞、詩歌、医薬に関する情報が含まれており、特に民間信仰や日常生活の実態を描写した貴重な記録として知られています。

洪邁の人生

洪邁（字は景廬）は、鄱陽県出身で、南宋時代の著名な政治家である洪皓の子です。彼はきわめて優れた才能を持ち、紹興15年（1145年）に科挙の博学宏詞科に合格。両浙転運司での役職を経て、左司員外郎に昇進しました。やがて金朝との講和論を唱えた宰相秦檜に対抗し、反対意見を述べることで左遷される運命となりました。

その後も地方官として名声を築き、最終的には翰林学士にまで昇進しました。洪邁は、歴史や文化に関する多くの著作を残しており、『容斎随筆』も非常に有名です。彼の人生を通じて見聞した多くの逸話や怪異な出来事をまとめたのが『夷堅志』です。

書の構成

『夷堅志』の構成は、複数の部門から成り、その全体で420巻とされる時期がありましたが、現在残っているのは206巻です。内容は多岐にわたり、10数の事例を記載した一つの巻の下には、具体的な本文が記されています。そして、各事例の末尾には、伝え聞いた出所も明記されており、当時の士人の交友関係を知る一助となっています。

また、書名の「夷堅」は『列子』の一節から取られており、自然や神々に対する考え方が色濃く表現されています。

重要性

この書は、単なる小説類にはとどまらず、宋代の社会や文化の実態を解明するための重要な資料ともなっており、特に民衆生活や信仰に関する洞察を得ることができます。仏教や道教を含む民間信仰、さらには人々の心の内面に迫る研究素材としても多くの scholars に引用されています。

現存本とその変遷

『直斎書録解題』では本書は全420巻と記されていますが、時を経て資料が散逸し、『宋史』や『四庫全書』では更に減少が確認されました。特に、現存する最も原本に近いとされるのは、1927年に出版された張元済の『新校輯補夷堅志』です。この版がもとにされて、1981年には中華書局から評点本も発行され、さらに『永楽大典』に収められた逸文なども取り入れられています。

『夷堅志』はその多様な内容と歴史的 context（文脈）において、今尚研究が続く重要な文化的遺産です。

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