奈良電気鉄道デハボ1000形電車

奈良電気鉄道デハボ1000形電車

奈良電気鉄道デハボ1000形電車は、現在の近鉄京都線にあたる奈良電気鉄道が保有していた電車の一形式です。1928年11月の桃山御陵前 - 大和西大寺間の開業に合わせて、同年10月に24両が日本車輌製造本店で製造されました。

車体

車体は、当時の川崎造船所製車両の設計を参考に、全長17,018mm、最大幅2,628mmの半鋼製車体です。木造車と同様に台枠の側面に柱を組み付け、リベットで組み立てる構造で、強度確保のために魚腹式台枠を採用しています。17m級の中型車ながら、重量は16.2tと重厚な設計でした。妻面は中央に貫通扉がある3枚窓構成で、お椀型の通風器を搭載していました。車内には扇風機は設置されていませんでした。

窓配置はdD(1)5D(1)4(1)Dd（d：乗務員扉、D：客用扉、(1)：戸袋窓、数字：側窓数）で、片引戸の客用扉が3箇所に設置されています。開業当初は単行運転が主体であったため、両端に全室式の運転台が設けられました。710mm幅の側窓は、戸袋窓以外は1段下降式で、2本の保護棒が取り付けられています。座席はすべてロングシートでした。

本形式の最大の特徴は、ギリシア神殿を思わせる装飾が施された柱頭部に代表される、豪華な木製内装でした。その凝った装飾は、廃車まで維持されました。また、乗り入れ先の大阪電気軌道奈良線に併用軌道区間があったため、新造当初は床下両端に大きな排障器（カウキャッチャー）が装着されており、アメリカのインターアーバンを彷彿とさせる外観でした。

主要機器

主要機器は、京阪電気鉄道の車両設計の影響を強く受けており、電装品は東洋電機製造製、台車は住友金属工業製という、京阪の標準的な組み合わせが採用されました。

主電動機

端子電圧500V時定格出力75kW、定格回転数757rpmの東洋電機製造TDK-520Sを、吊り掛け式で各台車に2基ずつ、計4基搭載しています。歯数比は22:53=2.41です。

制御器

東洋電機製造ES-155-A電動カム軸式制御器を搭載しています。これは、京阪電気鉄道が京阪線用電動車に標準採用していた制御器で、イングリッシュ・エレクトリック社製制御器を東洋電機製造でライセンス生産したものです。自動加速制御機構を備えており、ノッチ進段後、主電動機に流れる電流が規定値まで低下すると、カム軸を自動的に回転させます。

集電装置

奈良寄りに東洋電機製造C菱枠パンタグラフを1基搭載していました。

台車

住友製鋼所84A-34-BC3釣り合い梁式台車を装着していました。

ブレーキ

ウェスティングハウス・エア・ブレーキ純正のM三動弁によるAMM自動空気ブレーキ（Mブレーキ）を搭載していました。

運用

奈良電の開業以来、1969年9月の京都線の架線電圧昇圧まで、約40年にわたり主力車両として活躍しました。1950年頃には客用扉の自動化が行われ、1956年にはデハボ1001が廃車となり、デハボ1350形新造に伴う機器供出元となりました。1963年の近畿日本鉄道との合併の際には、デハボ1002 - 1024の23両が承継され、モ430形431 - 453に改番されました。

近畿日本鉄道への合併後、モ448・450が1968年に廃車となり、車体が木造電動貨車モワ2830形2831・2832へ転用されました。昇圧工事完成の時点で全車廃車の方針となり、1969年に残存全車が営業運転を終了しました。その後、電動貨車の代替として5両が転用・機器流用され、モ445は電動貨車モワ61形61へ、モ449・451 - 453は新造無蓋電動貨車モト51形51 - 54へ主要機器と車籍を供出しました。残りの16両は廃車解体されました。

モワ61は、昇圧改造工事で1,500V対応機器の一部が車内床上に搭載されましたが、車体外観はほぼ原型を保っていました。1971年にモワ87形87と改番され、台車と主電動機を交換した後も、1985年まで西大寺車庫の救援車として在籍しました。

最終的にモワ87も廃車解体され、本形式由来の車体はすべて解体処分となりました。機器流用車のモト75形も老朽化で機器換装が行われたため、本形式に由来する機器・車体は現存しません。ただし、モト51形新造の際に車籍が流用されたため、書類上はモト75形77・78としてデハボ1023・1024の車籍が今なお存続しています。

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