奥村晴彦

奥村晴彦



日本の計算機科学分野における第一人者の一人、奥村晴彦（おくむら はるひこ）氏は、1951年京都府京都市で誕生しました。現在は三重大学の名誉教授・特任教授を務めています。長年にわたり教育と研究の現場で活躍し、情報処理技術の発展と普及に多大な貢献をしてきました。

生い立ちと経歴



奥村氏は1975年に名古屋大学理学部物理学科を卒業後、同大学院理学研究科博士前期課程を修了しました。その後、神奈川県の公立高校で数学教諭として教鞭をとる傍ら、総合研究大学院大学にて博士（学術）の学位を取得しています。

高校教員を経て、1992年からは松阪大学（現・三重中京大学）政治経済学部で助教授となり、後に教授に昇任しました。大学では講義を担当するほか、文部省（現・文部科学省）核融合科学研究所との共同研究にも参加しました。また、三重県内の教育・情報関連委員会でも委員や会長などの要職を務めました。

2004年には三重大学教育学部教授に就任。教育学部のほか、高等教育創造開発センターや総合情報処理センターの教授も兼務しました。三重大学では、情報担当の学長補佐として学内の情報基盤整備を推進するなど、大学運営にも深く関わりました。その間、自然科学研究機構に移管された核融合科学研究所の客員教授も兼任しています。

主な業績



LZARI法



奥村氏の最も広く知られた業績の一つに、データ圧縮アルゴリズムである「LZARI法」の開発があります。これは、LZSS法と算術符号化（Arithmetic Coding）を組み合わせた効率的なアルゴリズムで、パソコン通信の黎明期であったPC-VAN上で発表されました。このLZARI法は、後に吉崎栄泰氏が開発したファイル圧縮形式「LHA」（当時はLHarc）の基礎となり、LHAは当時のパソコンユーザーの間で非常に普及し、世界中で広く利用されました。

TeXの普及



奥村氏は、学術論文や書籍の組版に用いられる高機能な組版システム「TeX」の日本における普及活動にも長年尽力しています。TeX関連の情報が集まる国内有数のポータルサイト「TeX Wiki」を運営し、Q&Aデータベースなども提供して、多くのユーザーの疑問解決に貢献しています。また、TeXおよびその派生であるLaTeXの解説書『LaTeX美文書作成入門』は、初心者にも分かりやすい手引きとして版を重ねるベストセラーとなり、日本のTeXユーザーにとって必携の一冊となっています。書籍では、Windows環境でのTeX利用を促進するため、初期にはWinShell、後にTeXworksといった統合環境を紹介しました。

その他の活動



古くからパソコン通信に関わり、学生時代からマイコン誌でアルゴリズム関連の記事を投稿するなど、情報技術の黎明期から積極的に活動しています。PC-VANでは科学分野のSIG SCIENCEを主催し、コミュニティ形成にも貢献しました。近年では、ビジネス文書などで多用される「Excel方眼紙」の問題点について論じた「ネ申Excel問題」が話題となり、情報活用における非効率性や改善の必要性を広く社会に提起しました。

人物と活動理念



奥村氏は、自身の著作や作成した多くのコンテンツをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で公開するなど、情報のオープン化に積極的な姿勢を持っています。ただし、対象によっては適切なライセンスを選択し、配布元の意向を尊重するなど、柔軟な対応も行っています。また、オンライン百科事典であるウィキペディアの編集者（ウィキペディアン）としても活動しています。

受賞歴



長年の教育・研究活動は高く評価されています。プラズマ・核融合学会では、学会の電子化推進への貢献が認められ、2007年に貢献賞を受賞しました。また、情報教育分野での研究発表も注目され、特に東日本大震災における情報通信技術の課題に関する発表は高い評価を受け、2012年に情報処理学会より山下記念研究賞を受賞しています。情報教育シンポジウムでの優れたプレゼンテーションに対しても、複数回にわたり賞を受けています。

主な著作



奥村氏は、技術評論社を中心に多数の技術書を執筆しています。特に『LaTeX美文書作成入門』シリーズはLaTeXの定番解説書として知られ、改訂を重ねながら多くの読者に利用されています。その他、アルゴリズム解説書やデータ解析、統計関連の書籍も出版しており、その著作は情報科学の学習者にとって重要な資料となっています。

  • - 『パソコンによるデータ解析入門：数理とプログラム実習』技術評論社
  • - 『コンピュータ・アルゴリズム事典』技術評論社
  • - 『C言語による最新アルゴリズム事典』技術評論社
  • - 『LaTeX美文書作成入門』シリーズ（技術評論社）
  • - 『LHA と ZIP：圧縮アルゴリズム×プログラミング入門』ソフトバンク
  • - 『Rで楽しむ統計 (Wonderful R 1)』共立出版
  • - 『Rで楽しむベイズ統計入門[しくみから理解するベイズ推定の基礎] (Data Science Library) 』技術評論社

（一部抜粋）

奥村晴彦氏の研究と教育における貢献は、特にTeXの普及やLZARI法の開発といった形で、日本の情報科学史において重要な足跡を残しています。その活動は多岐にわたり、現在も精力的に情報発信を続けています。

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