奥野定良

奥野定良は、江戸時代前期、赤穂藩に仕えた武士です。1647年（正保4年）に生まれ、家老奥野定次の息子として誕生しました。母は大石信雲の娘という、大石蔵之丞（良雄）と血縁関係のある由緒ある家系に生まれた人物でした。通称は将監、禄高は1000石の組頭という地位にありました。

1701年（元禄14年）、浅野内匠頭長矩が吉良上野介義央に刃傷に及んだ事件は、日本の歴史に深く刻まれています。この事件で浅野長矩は切腹、赤穂藩は改易となりました。赤穂城明け渡しにおいては、家老大野知房の逃亡により、奥野定良は、大石良雄を補佐し、その重責を担いました。

その後、大石良雄が中心となって進められた、浅野家再興を目指す義盟にも参加。大石を支える重要な役割を担っていました。しかし、1702年（元禄15年）7月、浅野長矩の弟である浅野長広の広島浅野宗家への永預けが決まり、浅野家再興の望みが絶たれると、状況は一変します。京都円山での会議において、大石良雄は吉良義央への仇討ちを決意。しかし、その直後、奥野定良は義盟から離脱するという、歴史の転換点となる選択をしました。

奥野定良の脱盟の理由は諸説あります。一説には、大石良雄が吉良義央討ち入り計画の情報を漏らした場合に備えて、二番手として残っていたという説、もう一つの説では、浅野長矩の隠し子である姫の育成に関わっていたため、という説などが存在しますが、いずれも確かな証拠はなく、真相は闇の中です。

仇討ち後、大石良雄は細川家に預けられます。大石は、奥野定良の脱盟を大変残念に思っていたという記録が残っています。奥野定良は、その後、播磨国に戻り、娘婿である磯崎神社神宮寺秀経のもとに身を寄せ、右衛門と名を変えて新田開発に尽力しました。晩年には、播磨国多可郡中村の延明寺に移り、隠棲生活を送ったと伝えられています。

奥野定良の墓は、糀屋村にあるとされ、その墓碑銘には「玄徳院節厳禅義居士」の戒名と、1727年（享保12年）5月22日没、享年81歳と刻まれています。この戒名は、磯崎神社に残る神宮寺過去帳と一致しており、その死の記録の信憑性を高めています。なお、奥野定良の組には、のちに吉良邸討ち入りを果たした潮田高教や木村貞行といった藩士が属していました。

小説家司馬遼太郎の短編小説「池田屋異聞」（『新選組血風録』収録）では、新選組隊士の山崎烝を奥野定良の子孫として描かれていますが、これは創作によるものです。歴史的事実とは異なる点に注意が必要です。奥野定良の生涯は、赤穂義士の物語における複雑な人間関係や、時代の流れの中で翻弄された一人の武士の姿を如実に示す、興味深いものです。

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