妖神グルメ

妖神グルメ：和製クトゥルー神話の金字塔

菊地秀行氏による小説『妖神グルメ』は、1984年の刊行以来、日本のクトゥルー神話における重要な作品として高い評価を受けています。「和製クトゥルー神話の金字塔」と称される本作は、従来のクトゥルー神話作品とは一線を画す、ユニークな設定と展開が魅力です。

創作背景と変遷

1984年、デビュー3年目の菊地秀行氏によって発表された本作は、当初はジュブナイル作品として企画されました。その後、2000年にはソノラマ文庫NEXTより、2013年には創土社の専門レーベル「クトゥルーミュトスファイルズ」より再刊行され、幅広い読者に親しまれてきました。

本作の着想は、ハリー・クレッシングの『料理人』から得られたとされています。菊地氏がクトゥルー神話に本格的に取り組んだ最初の作品であり、その後の氏のクトゥルー神話創作に大きな影響を与えました。当時、日本の長編クトゥルー神話小説は『クトゥルー・オペラ』や『魔界水滸伝』などごくわずかでした。そんな状況の中、『妖神グルメ』は超能力者や日本の妖怪とのバトルとは異なる、天才料理人を主人公とする斬新な設定で話題を呼びました。

再刊行にあたって、菊地氏は当時の状況と、クトゥルー神話が日本においてホラーのジャンルとして確立された経緯を振り返り、新たなクトゥルー神話創作の必要性を訴えています。この発言は、21世紀以降の日本のクトゥルー神話創作の動向に少なからず影響を与えたと考えられます。紀伊國屋書店でのベスト10入りを果たした際には、作者である菊地氏が自らその光景を撮影したというエピソードも残されています。

さらに、ヨグ＝ソトースの表記について、初版では映画『怪談呪いの霊魂』で用いられた「ヨグ・ソトト」と表記されている点も興味深い点です。菊地氏自身もこの表記について触れており、1963年当時としては日本初の表記だった可能性を示唆しています。2013年の再刊行時には「ヨグ＝ソトホース」を採用していましたが、新装版では時代感を残すためあえて元の表記を維持したとのことです。

ストーリーと登場人物

物語は、天才的なイカ料理の腕を持つ高校生、内原富手夫（名前はナイアルラトホテップのアナグラム）を中心に展開します。彼は、深川の老舗料亭の一人娘である西本江梨子や、謎めいた人物たちと関わり合いながら、クトゥルー神話に深く関わっていくことになります。

物語には、クトゥルーそのものに加え、アブドゥラ・アルハズレッド、マーシュ氏、ハワード・アーミティッジ博士（ダンウィッチ事件を解決したアーミティッジ博士の孫）、フランスの天才料理人エミール・ギルクリスト、ヨグ・ソトトの信徒であるオリバー・ウェイトリーなど、個性豊かな登場人物が登場し、物語に彩りを添えています。

刊行とコミカライズ

本作は朝日ソノラマ、ソノラマ文庫NEXT、創土社「クトゥルーミュトスファイルズ」と、複数の出版社から刊行されています。それぞれの版では表紙イラストレーターや解説者も異なり、時代の変化と読者層の変化を反映しています。

さらに、コミカライズ版も存在し、全2巻のうち1巻を黒瀬仁氏、2巻をマーチン角屋氏が担当しています。

関連作品

『妖神グルメ』は、『邪神迷宮』や『魔界都市ガイド鬼録』シリーズとも関連性があります。特に『魔界都市ガイド鬼録』シリーズでは、主人公の内原富手夫が登場し、『妖神グルメ』の内容に言及されているほか、彼の正体についても重要なヒントが示されています。

まとめ

『妖神グルメ』は、クトゥルー神話に日本の文化や独自の解釈を取り込み、新たな境地を開拓した作品として、日本のホラー文学史にその名を刻む重要な作品です。料理、クトゥルー神話、そして個性豊かな登場人物たちが織りなす、独特の世界観は、多くの読者を魅了し続けています。再刊行やコミカライズを通して、現代においても高い人気を誇る本作は、今後も日本のクトゥルー神話作品における象徴的な存在であり続けるでしょう。

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