クトゥルー・オペラ

クトゥルー・オペラ：邪神との壮絶な戦いを描いたジュブナイルスペースオペラ

『クトゥルー・オペラ』は、風見潤氏によって1980年7月から1982年4月にかけて朝日ソノラマより刊行されたライトノベルです。H・P・ラヴクラフトのクトゥルフ神話の世界観をベースに、科学力と超能力を駆使して邪神に立ち向かう少年少女たちの活躍を描いた、ジュブナイルスペースオペラと言える作品です。1997年を舞台に、世界中から集められた超能力を持つ7組の双子が、次々と現れるクトゥルフ神話の邪神たちと壮絶な戦いを繰り広げます。

あらすじ：地球と宇宙を股にかけた戦いの渦

物語は、超能力を持つ双子を探し求めるホリスター会長の行動から始まります。世界各地で奇怪な現象が発生し、邪神たちの影が忍び寄る中、北海道で古代文字の解読に成功した深松兄弟は、ホリスター会長にスカウトされます。その後、各地で邪神との戦いが展開され、アテネでのダゴンとハイドラの撃破、カイロの壊滅、ルリイエでのクトゥルー撃破など、息つく間もない展開が続きます。

生き残った双子は、宇宙船アイリス号に乗り込み、宇宙へと旅立ちます。フォーマルハウトからのクトゥグァ襲来をノルウェーで撃退する一方、カダスの地に封じ込められていた地球本来の神々が彼らの支援に駆けつけます。エベレスト、太平洋上の島々、ヒアデス星団と、戦いの舞台は地球から宇宙へと広がり、ハストゥール、シュブ＝ニグラト、ガタノトゥアといった強力な邪神たちを次々と打ち倒していきます。しかし、ヨグ＝ソトートとの戦いで四次元空間へ迷い込み、20億年前の過去へと飛ばされてしまうのです。

現代へと戻った彼らは、ウボ＝サトゥラ、アブホート、ツァトゥグァといった新たな邪神たちの襲来に直面します。横浜が鏡の世界に引きずり込まれるなど、危機的な状況が続きますが、果敢に戦いを続け、邪神たちを撃破していきます。しかし、犠牲も伴います。ヨグ＝ソトートとの戦いでオスロ市は消滅し、トールが行方不明となるなど、戦いの厳しさが改めて描かれます。

最終決戦の舞台はベテルギウスの惑星です。そこで明らかになるのは、20億年前に飛ばされたイシマントとターラーが、善神となって邪神を封印し、現代の地球人に力を与えていたという事実。そして、邪神の王アザトートとの最終決戦が始まります。ブラックホールを舞台とした壮絶な戦いの末、彼らはアザトートを倒し、物語は幕を閉じます。9人の少年少女たちは、古代の地球へと降り立ち、彼らの活躍は、各地の神話に名残として刻まれることになるのです。

登場人物：個性豊かなキャラクターたちが織りなすドラマ

物語を彩るキャラクターたちは、それぞれ個性豊かで魅力的です。超能力を持つ双子の少年少女たちは、世界の神話や伝説に由来する名前を持ち、それぞれ異なる能力で邪神と戦います。深松兄弟、ペリイとテリイ、潘姉妹、ターラーとドゥルガー、アテニーとアルテミス、チュールとトール、イシマントとハールーン。彼らを取り巻くのは、ホリスター会長やリンダ・アーチャー、深松信介教授といった協力者たち、そして、地球本来の神々や、個性豊かな邪神たちです。

クトゥルー、ダゴン、ハイドラ、アザトート、ヨグ＝ソトート、ツァトゥグァ、シュブ＝ニグラト、ナイアルラトホテップといったクトゥルフ神話の主要な邪神に加え、アブホート、ウボ＝サトゥラ、イタカ、ツァールとロイガー、シャンタク鳥、ウムル・アト＝タウィルなど、オリジナルの邪神たちも登場し、物語に深みを与えています。

作風と制作背景：クトゥルフ神話を独自の解釈で描く

『クトゥルー・オペラ』は、一般的なクトゥルフ神話作品とは異なるアプローチを取っています。主人公たちが、科学力と超能力を駆使して邪神を倒していくという、従来のクトゥルフ神話にはない展開が特徴です。風見潤氏は、既存の神話作品のパターンへの反発から、クトゥルフ神話を活劇として描くことを試みました。当初は、恐怖描写の後、科学力で邪神を倒すという構想でしたが、結果として超能力の要素が加わったことで、より独自の物語が誕生しました。

全ての主人公が双子である理由は、複雑化する物語を整理するために、同じ能力を持つ人物を複数設定したためです。この設定は、多数の敵と戦う物語において、効率的で効果的な手法となっています。

評価：日本のクトゥルフ神話長編の金字塔

『クトゥルー・オペラ』は、日本のクトゥルフ神話長編の先駆けとして、高い評価を得ています。栗本薫氏や菊地秀行氏など、多くの作家からその影響や革新性が認められています。特に、邪神を倒していくという斬新な展開は、後のクトゥルフ神話作品にも大きな影響を与えました。邪神伝説シリーズにも影響を与えたと言われ、現在でも多くのファンに愛されている作品です。

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