姫島村リンチ殺人事件

姫島村リンチ殺人事件

1962年（昭和37年）、大分県国東半島沖の姫島で発生した、集団暴行による殺人事件です。この事件は「姫島村リンチ事件」とも呼ばれています。

事件の概要

1962年3月30日、姫島村の青年団員7名が警察署に出頭し、兄弟2名を殺害したことを自供しました。殺害された兄弟はA（当時27歳）とB（当時23歳）で、6年前に島に戻ってから、映画館やパチンコ店を経営していました。しかし、彼らは以前住んでいた別府市の暴力団関係者と繋がりがあり、些細なことで因縁をつけ、暴行を加えるなど、まるでヤクザのような振る舞いを繰り返していました。被害者は島民100人以上にも及び、警察や役場に被害届が提出されましたが、兄弟の親戚に村議会議長と議員がいたため、事件はもみ消されていました。

さらに、兄弟は告訴しようとした島民に報復を行い、自身の背後に暴力団がいることを誇示して脅迫するなど、島民は彼らに逆らうことができませんでした。このような状況下で、1962年3月上旬、村の青年団が少女歌劇公演を無料で開催したところ、映画館の客が減ったことに逆上した兄弟が、青年団を脅迫しました。青年団は報復を恐れ、公民館に避難して集団宿泊をしていましたが、3月29日の朝、兄弟が公民館に殴り込み、青年団員9人が負傷しました。

この事態に激怒した青年団員30数名は、兄弟を懲らしめようと決意し、3月30日午前2時ごろ、姫島幼稚園前の公園に兄弟を呼び出し、棍棒などで集団暴行しました。その後、兄弟は姫島診療所に搬送されましたが、死亡が確認されました。

その後の経過

事件に関与した39人のうち、15人が傷害致死罪などで起訴されました。大分地方裁判所で行われた裁判では、首謀者（当時36歳）には懲役2年の実刑判決が下されましたが、他の者には執行猶予付きの軽い刑罰が言い渡されました。判決では、暴行は懲罰目的であり、当初から兄弟を殺害する意図はなかったこと、多数が参加したためにコントロール不能に陥ったこと、そして事件の責任の一端は被害者側にもあることが、軽い刑罰の理由として挙げられました。

この事件は、1964年にテレビドラマ『目撃者』として放送され、社会に大きな影響を与えました。

事件の背景

この事件の背景には、当時の島社会における閉鎖的な構造や、暴力団の影響、そして島民の不満の蓄積がありました。また、警察や行政の機能が十分に働いていなかったことも、事件を助長した要因の一つと考えられます。この事件は、地域社会における権力構造や、集団心理の恐ろしさを浮き彫りにしました。

参考文献

日高恒太朗『別冊歴史読本　新・殺人百科データファイル-』、新人物往来社、2008年、120-121頁
『明治・大正・昭和・平成　事件・犯罪大事典』、東京法経学院出版、2002年、84頁
（旧版のオンライン版）玉川信明執筆「大分・姫島村村民集団リンチ殺人事件」、事件・犯罪研究会編『明治・大正・昭和 事件・犯罪大辞典』東京法経学院出版、1986年、60頁、NDLJP:11896699/37
高田敏男「姫島リンチ殺人と“ムラ”の防衛論理」、『現代の眼』19巻8号、現代評論社、1978年8月、104-107頁、NDLJP:1771584/54

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