安中宿

安中宿（あんなかしゅく）

安中宿は、中山道六十九次のうち、江戸（日本橋）から15番目に位置する宿場町でした。現在の群馬県安中市安中にあたり、かつては安中藩の城下町としても重要な役割を担っていました。

概要

宿場は、碓氷川と九十九川に挟まれた河岸段丘上に位置し、標高は約180m。中山道における交通の要衝でした。安中宿の東には、中宿という宿場も存在しましたが、こちらは中山道の公式な宿場ではありませんでした。

安中の地名は、戦国時代までは野後（のじり）と呼ばれていました。古代の東山道もこの地を通過し、『延喜式』には野後に駅が置かれていたことが記されています。ただし、徳川家康が関東に入国する以前の中山道は、現在の道筋とは異なり、安中城や松井田城の北側を通っていたという説もあります。

「安中宿」という名称が初めて登場するのは、慶長7年（1602年）の文書です。この頃には、宿場としての機能が形成されていたと考えられます。しかし、安永5年（1776年）、安政5年（1858年）、慶応3年（1867年）と、宿場は大火に見舞われ、その大半が焼失しています。

安中宿の大きな特徴は、宿場が無高であったことです。これは、安中宿が安中村という独立した村ではなく、街道の北側が上野尻村、南側が下野尻村の土地に家が建ち並んでいたためです。

宿場の範囲は、安中4丁目の信号を東端、地域福祉支援センター前を西端とする約407メートルの区間でした。天保15年（1844年）の記録によると、宿場内の家数は64軒で、本陣1軒、脇本陣2軒、旅籠17軒、人口は348人でした。

本陣は須藤家が務め、現在の安中郵便局の場所にありました。須藤家の先祖は間仁田城主と伝えられ、問屋も兼ねていました。本陣の規模は、間口14間半、奥行25間で、建坪は192坪でした。脇本陣は、上の脇本陣が金井家、下の脇本陣が須田家で、それぞれ間口11間半、8間でした。安中宿本陣古文書は、安中市の重要文化財に指定されています。

安中宿の助郷

中山道の宿場では、通常、人馬継立のために50人50疋の御定人馬を備えることとされていました。しかし、安中宿は小規模だったため、25人25疋の「半減勤」で許される期間が長くありました。半減勤が適用されなかった期間は、文化8年（1811年）から文政5年（1822年）までと、弘化4年（1847年）から万延元年（1860年）までのわずか24年間でした。

宿場の人馬だけでは不足する場合、周辺の助郷の村々に負担をかけることになります。そのため、半減勤の適用を巡って、宿場と助郷の村との間で争いが起こることもありました。安中宿の助郷の村は19ヶ村に及びました。

文化8年（1811年）に半減勤が解除されたのは、天明大噴火による被害を受けた中山道の宿場に対し、江戸幕府から馬飼料代が与えられたことがきっかけでした。安中宿の助郷村が、安中宿も拝借金を受けるのであれば、半減勤を解くべきであると訴え出て、それが認められたのです。

安中宿側は、再度の半減勤認可を求めて道中奉行に訴え出て、安中藩主・板倉勝明もこれを後押ししました。しかし、安中藩領以外の村の反対は根強く、その際に勘定奉行兼道中奉行・石川忠房を生き神様として祀る生祠が作られました。結果的に、文政5年（1822年）から弘化4年（1847年）までの25年間、増助郷23か村が付けられることとなりました。文政3年（1820年）に作られた生祠は行方不明となりましたが、昭和35年（1960年）に再建された祠と天保5年（1834年）建立の「石川館駅使生祠之碑」が、安中市指定史跡となっています。

最寄り駅

東日本旅客鉄道（JR東日本）信越本線 安中駅

史跡・みどころ

旧碓氷郡役所: 1911年に建築された木造平屋の役所建築。安中市重要文化財。
安中教会: 日本基督教団の教会。群馬県初のキリスト教会。教会堂など4棟が国の登録有形文化財。
旧安中藩郡奉行役宅: 旧猪狩家住宅。一般公開。
旧安中藩武家長屋: 安中藩の家臣が居住していた長屋。一般公開。
有田屋: 湯浅家が経営する醤油味噌醸造会社。安中の名士。
便覧舎址: 日本最初期の図書館のひとつ。
新島襄旧宅: 新島襄が父母と暮らした家。新島襄記念館として一般公開。

安中宿は、歴史的な遺産と美しい自然が調和した魅力的な場所です。ぜひ一度、訪れてみてください。

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