安井仙角仙知

安井仙角仙知（やすい せんかくせんち）

安井仙角仙知（やすい せんかくせんち、明和元年（1764年） - 天保8年（1837年）10月）は、江戸時代の著名な囲碁棋士であり、家元安井家の七世安井仙知として知られています。六世安井仙哲の門下で、八段準名人の地位にありました。

七世仙知は、隠居後に仙角と名乗ったため、八世安井仙知（知得仙知）と区別するために仙角仙知、または大仙知（おおせんち）と呼ばれます。また、四世仙角（古仙角）や五世春哲仙角とも区別されます。仙知は僊知とも表記されます。

仙角仙知は、中央を重視する戦略と、独創性あふれる構想力で、近代碁の祖として高く評価されています。

生涯

安井仙角仙知は、安井家の外家である坂口家の坂口仙徳の長男として生まれました。幼い頃からその才能が認められ、安井仙哲の養子となります。安永9年（1780年）に仙哲が亡くなると、17歳で安井家を継ぎ、七世安井仙知となりました。同年には、父仙徳とともに御城碁に初出仕を果たしました。

天明2年（1782年）に四段に昇段、寛政初期には上手（七段）に進んだとされています。寛政12年（1800年）には、中野知得を跡目としました。享和2年（1802年）には、14歳年上の本因坊烈元と同時に八段準名人に昇進しました。

仙知は、同時代の棋士たちに対し、圧倒的な勝率を誇っていました。本因坊烈元には16勝2敗1持碁、服部因徹（因淑）には7勝3敗、水谷琢元には4勝1敗1持碁、本因坊烈元の跡目候補であった河野元虎には9勝2敗という記録を残しています。

名人碁所の地位も十分に狙える実力がありましたが、それを望みませんでした。その理由として、寡欲な性格であったことや、11歳下の本因坊元丈、12歳下の弟子である中野知得の成長を期待していたためとも言われています。御城碁においては、初出仕の年に林祐元門入に二子で勝利し、その後文化7年（1810年）までに18勝9敗2ジゴという成績を収めました。

文化12年（1815年）に51歳で隠居し、中野知得に家督を譲り、仙角と号しました。天保6年（1835年）、本因坊丈和が赤星因徹と対局した松平家碁会では、開催を働きかけた岡田頼母と対局しています。天保8年（1837年）に亡くなり、紫石院仙角日翫信士として浄心寺に葬られました。

棋風と評価

仙知の碁は、当時の江戸中期としては異例であり、地よりも中央を重視し、積極的に戦いを挑むスタイルでした。本因坊秀和は「当代華やかなる碁を推さんには、七世仙角の右に出づる者なかるべし」と評し、瀬越憲作は『御城碁譜』において、寛政4年（1792年）の本因坊烈元戦を「この碁は仙知の奇才を遺憾なく発揮している名局で寄正変幻不可端倪とは正にこの局の如きをいう」と評しました。また、「成否はおいて、毎局新構想を打ち出す」「其の絢爛華麗の風こそ近代型戦術の発案とも称すべきか」とも述べています。木谷実の新布石のアイデアは、仙知の影響を受けていると言われています。

仙知はまた、幕末にかけての本因坊家に対抗しうる安井家の興隆に大きく貢献しました。父仙徳が興した坂口家の再興にも尽力し、実子とも伝えられる荻野虎次郎を育て、虎次郎は天保9年（1838年）に坂口家を継いで阪口仙得を名乗り、天保四傑の一人に数えられました。

御城碁戦績

1780年（安永9年） 二子中押勝 林祐元門入
1780年（安永9年） 白番2目勝 林門悦
1782年（天明2年） 白番中押勝 林門悦
1782年（天明2年） 二子中押勝 本因坊烈元
1783年（天明3年） 先番3目勝 河野元虎
1784年（天明4年） 先番12目勝 本因坊烈元
1784年（天明4年） 二子中押勝 本因坊察元
1785年（天明5年） 先番17目勝 井上因達因碩
1785年（天明5年） 白番中押勝 河野元虎
1786年（天明6年） 白番中押負 河野元虎
1787年（天明7年） 白番中押勝 林門悦
1790年（寛政2年） 白番5目負 河野元虎
1791年（寛政3年） 白番ジゴ 井上因達因碩
1792年（寛政4年） 白番中押勝 本因坊烈元
1792年（寛政4年） 白番中押勝 河野元虎
1793年（寛政5年） 先番15目勝 河野元虎
1794年（寛政6年） 向二子2目勝 井上春策
1795年（寛政7年） 白番中押勝 林門悦
1796年（寛政8年） 白番中押勝 井上春策
1797年（寛政9年） 向二子2目負 井上春策
1798年（寛政10年） 白番5目負 本因坊元丈
1799年（寛政11年） 先番4目勝 本因坊烈元
1801年（享和元年） 白番中押負 井上因達因碩
1802年（享和2年） 向二子6目負 井上春策
1803年（享和3年） 白番1目負 本因坊元丈
1805年（文化2年） 白番ジゴ 林門悦
1806年（文化3年） 向三子中押負 林鐡元
1809年（文化6年） 白番2目勝 林門悦
1810年（文化7年） 向二子5目負 井上因砂因碩

寛政4年御城碁譜

寛政4年11月17日 安井仙角仙知 - 本因坊烈元(先番)

白は高目と目外しという、仙知らしい位の高い布石で始まりました。白1（18手目）が工夫された手で、白4までは力強い打ち方です。黒8と利かしに来た手を隅に閉じ込め、白13と封鎖して右辺を拡大しました。その後、右辺、上辺と激しい戦いが続き、中央のコウ争いで黒が失着し、184手で白中押勝となりました。

著作

『碁立百番』1797年（写本）
『烏鷺争飛集』1803年（『碁立百番』の版本）

また、盤中作り物「総追落」は名作として知られています。

参考文献

大竹英雄『親仙徳・大仙知 日本囲碁大系(7)』筑摩書房 1977年 ISBN 4480691073
福井正明、相場一宏『碁会黄金の十九世紀』日本棋院 2007年
福井正明『名人・名局選 大仙知』誠文堂新光社 2009年

外部リンク

* 木石庵「安井仙角仙知（大仙知）」

もう一度検索