安倍邦太郎

安倍邦太郎（あべ くにたろう）は、1883年（明治16年）に現在の新潟市中央区にあたる流作場新田で生まれ、1946年（昭和21年）に62歳で亡くなった、日本の実業家であり政治家です。郷土の旧家である安倍家の第11代当主、安倍周平の長男として育ちました。

若くして学問を志し、新潟中学校を卒業した後、上京して東京専門学校高等予科（現在の早稲田大学高等学院）に進学しました。この東京での学生時代には、後に著名な歌人・美術史家となる会津八一と下宿を共にするなど、交流を深めています。早稲田大学大学部政治経済学科で専門を学び、1906年（明治39年）に卒業。卒業後にはウラジオストクや樺太を視察するなど、見聞を広めました。

帰郷後、安倍氏は実業界で頭角を現します。鍵三銀行の支配人を務めたほか、地域の福祉施設である新潟保育院の理事に就任するなど、早くから社会貢献にも関わりました。特に、硫黄肥料などを製造する日本硫曹やその関連会社である日東硫曹では、常務取締役や専務取締役、そして社長を務めるなど、化学肥料産業の分野で中心的な役割を果たしました。また、東部硫酸販売の取締役、日東運送の社長として物流にも関与したほか、新潟青果配給統制社長、新潟株式取引所や新潟米穀取引所の監査役、新潟港作業監査役など、新潟の経済を支える多岐にわたる事業の要職を歴任しました。

実業での成功を基盤に、安倍氏は政治の舞台にも進出します。1917年（大正6年）に新潟市会議員に初当選し、以後6期にわたって市政に深く関わりました。市会議員としての活動中、新潟市参事会員、新潟市農会副会長、新潟県農会議員、亀田郷水害予防組合組合員、新潟市産米改良委員、新潟港是調査会委員など、市の運営や地域社会の課題解決に関わる様々な役職を務めました。また、教育分野でも、沼垂幼稚園の第2代園長を務めるなど、幅広い活動を展開しました。

1925年（大正14年）には新潟商業会議所議員、都市計画新潟地方委員会委員に就任し、都市の発展計画にも関与。翌1926年（大正15年）には新潟実業組合連合会理事長となり、地域産業の振興に尽力しました。

中央政治への進出は1928年（昭和3年）のことです。第16回衆議院議員総選挙に新潟県第1区から立憲民政党公認で立候補し、当選を果たしました。衆議院議員として国政に携わる一方、新潟に戻れば新潟商工会議所顧問や新潟市教育会長なども兼任し、地域との繋がりを保ち続けました。

再び市政の中心に戻ったのは1933年（昭和8年）で、第14代新潟市会議長に就任します。その後も、1937年（昭和12年）に第15代議長に再任され、長期にわたり議会の舵取りを担いました。特に、1938年（昭和13年）には第7代全国市会議長会会長に推されるなど、全国的な地方自治振興にも貢献しました。

太平洋戦争が始まる直前の1941年（昭和16年）には、大政翼賛会の新潟県支部顧問および新潟市支部理事に就任するなど、戦時体制下の活動にも関わりました。

また、安倍氏は著名な親族を持っています。叔祖父にあたる安倍九二造は、安倍家の第12代当主として沼垂町長を務めたほか、沼垂幼稚園の創設者・初代園長であり、地域の発展に貢献した人物です。その長男で安倍氏の従叔父にあたる安倍邦衛は、鉄道官僚として日本最初の地下鉄設計者として知られています。

著書として『通俗市政問答』を、編書として『萬代の光』を残しており、思想や活動の一端をうかがい知ることができます。これらの功績に対し、第一回国勢調査記念章、金杯一個、紀元二千六百年祝典記念章などの栄典を受けています。

1946年（昭和21年）、終戦を迎えた翌年に、安倍邦太郎氏は故郷である新潟市流作場の自宅農園で作業中に倒れ、心臓麻痺により急逝しました。62歳でした。墓所は日蓮宗の本立寺にあります。多岐にわたる分野で指導的な役割を果たし、戦前から戦中にかけての新潟の地域社会、経済、政治に大きな足跡を残した人物と言えるでしょう。

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