安藤輝三

安藤輝三：二・二六事件の悲劇の軍人

安藤輝三（あんどう てるぞう）は、1905年2月25日に生まれ、1936年7月12日に処刑された日本の陸軍軍人です。最終階級は歩兵大尉。二・二六事件において、皇道派の青年将校の一人として深く関与し、首謀者として死刑判決を受けました。

生涯

岐阜県揖斐郡揖斐町を本籍とする安藤は、父の栄次郎が金沢第二中学校の英語教師をしていた際に金沢市で生まれました。宇都宮中学校、仙台陸軍幼年学校を経て陸軍士官学校に進み、1926年7月に卒業。同期には、同じく二・二六事件で中心的な役割を果たした磯部浅一がいました。当時の陸軍士官学校長は、後に事件の黒幕とも呼ばれる真崎甚三郎でした。

安藤は陸軍入隊後、着実に昇進を重ねます。1930年から1931年にかけては陸軍戸山学校で学び、1934年には大尉に昇進。歩兵第3連隊で副官や中隊長を務めました。中隊長就任にあたっては、部下や同僚からの信頼が厚かった一方で、過激な青年将校との関係を危惧した上層部に対し、「直接行動はしない」という誓約書を提出しています。

二・二六事件と鈴木貫太郎襲撃

安藤は、事件の3年前に鈴木貫太郎邸を訪問し、鈴木から国家観や歴史観について薫陶を受けました。鈴木の人物に感銘を受けた安藤は、後に鈴木から書を贈られています。事件に際して、安藤は鈴木を殺害することなく、一時的に監禁することで済ませられないかと考えていたといいます。

当初、安藤は決起に慎重な姿勢を示し、合法的な手段での改革を主張していました。しかし、最終的には同志を見捨てることをよしとせず、決起直前に参加を決意。歩兵第3連隊を率いて、反乱部隊の中でも最大勢力となりました。

事件当日、安藤が率いる部隊は鈴木貫太郎邸を襲撃。鈴木は銃撃を受け重傷を負います。安藤は、部下から「とどめを」と促されますが、鈴木の妻の懇願を聞き入れ、敬礼をしてその場を去りました。この行動が、後に鈴木の命を救うことになります。

鈴木は安藤の処刑後、「思想は純真だった」「安藤がとどめを刺さなかったから自分は生きることができた」と語ったと伝えられています。

事件後と刑死

決起後、安藤は徹底抗戦を主張しましたが、最終的には投降を決意。部下たちに最後の訓示を与え、自決を図りましたが、一命を取り留めました。軍法会議の結果、叛乱罪で死刑判決を受け、1936年7月12日に処刑されました。享年31歳。

人物像

安藤は、部下からは「威張ることのない優しい人」として慕われていました。一方、家庭では物静かな人物だったようです。二・二六事件という歴史の転換期に翻弄された、悲劇の軍人として、その名は今も語り継がれています。

関連作品

安藤輝三を題材とした映画やドラマも制作されています。

映画『叛乱』(1954年)：細川俊夫 演
映画『重臣と青年将校 陸海軍流血史』(1958年)：宇津井健 演
映画『銃殺』(1964年)：鶴田浩二 演（安東大尉役）
映画『宴』(1967年)：岡田英次 演
映画『日本暗殺秘録』(1969年)：森源太郎 演
映画『226』(1989年)：三浦友和 演
映画『スパイ・ゾルゲ』(2003年)：佐藤学 演
ドラマ『熱い嵐』(1979年)：明石勤 演
ドラマ『ニュードキュメンタリードラマ昭和 松本清張事件にせまる』(1984年)：志垣太郎 演
ドラマ『そして戦争が終った』(1985年)：西郷輝彦 演

これらの作品を通じて、安藤輝三という人物と二・二六事件についてより深く知ることができます。

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