宗教系旧制専門学校

戦前の宗教系専門学校

戦前の日本には、仏教やキリスト教、神道など、様々な宗教者や宗教団体によって設立された専門学校が存在しました。これらの学校は、それぞれの宗派の教義を研究したり、布教者を育成したりすることを主な目的としていました（ただし、実業系の専門学校は含まれません）。また、戦前期においては神道が制度上「宗教」と見なされていませんでしたが、本項目では神道系の学校も含めて概観します。

概要

宗教団体が設立した性格上、これらの専門学校のほとんどは私立学校でした。例外として、神道系の神宮皇學館のみが内務省の管轄する官立学校でした。

多くの学校で、設立母体である宗派の布教活動（ミッション）や教学の研究、あるいは将来の布教者の養成が重要な目的とされました。学科編成においても、宗派に関わるものが多く設置されました。しかし、プロテスタント系の学校の中には、経営難や戦時下の国家による宗教統制の影響を受け、神学部を廃止するところも少なくありませんでした。

これらの宗教系学校は、特に1920年代から1940年代にかけて、仏教系・キリスト教系・神道系合わせて13校が大学令に基づく旧制大学へと昇格しました。この中には、仏教系の3校が合同して設立された大正大学なども含まれます。このため、法律学校と並んで、現在の著名な私立大学の歴史的な源流の一つを形成していると言えます。

歴史

宗教系学校の新設と初期の展開

明治維新後、特にプロテスタント系の宣教師たちは、欧米からの来日者として布教活動の一環として日本各地に私立学校を設立しました。これらのキリスト教系学校は、洋学教育（特に英語）への需要が高まっていたことや、当時の官公立学校の整備が不十分だった状況を背景に、一般の子弟、特に女子への普通教育や英語教育に力を入れていました。1880年代半ばまでの欧化主義の流れに乗って発展しましたが、国家主義や保守主義の台頭により社会的圧迫を受け、官公立学校の増加もあって次第に厳しい状況に置かれました。

一方、仏教系の学校は、1886年から1888年にかけて、各宗派の「大学林」として次々に設立されました。これは、1884年の教導職廃止によって政府主導の神仏一体化政策が頓挫したことを受け、仏教教団が自ら僧侶を養成する必要に迫られたためでした。キリスト教系学校とは異なり、当初は一般子弟への教育よりも、僧侶養成に特化した性格を持っていました。

宗教教育禁止への対応

1899年に公布された私立学校令に伴い、文部省訓令第12号が出されました。これは、私立学校の存在を公的に認める一方で、文部省が公認した学校（官公私立問わず）での宗教教育を禁止する内容でした。これはキリスト教系学校にとって大きな問題でした。文部省の公認を得て兵役免除や上級学校への進学といった特権を維持するためには宗教教育を廃止する必要がありましたが、それは宣教団体からの財政支援を失うことにつながりました。逆に、宗教教育を続けるために公認を得なければ、これらの特権を失い、学生が集まらなくなるという危機に直面しました。しかし、実際には公認を受けなかった学校から特権が剥奪されることはありませんでした。

一方、僧侶養成に主眼を置いていた仏教系学校は、多くが内務省の管轄下にあり、文部省の私立学校令の適用対象外であったため、この宗教教育禁止条項の影響をほとんど受けませんでした。1903年3月に専門学校令が施行された際、文部省は宗教教育の自粛を強く求めなかったため、キリスト教系、仏教系を問わず、多くの宗教系学校が専門学校令に基づく旧制専門学校へと移行しました。

旧制大学への昇格

専門学校令準拠後、「大学」と称する宗教系学校も現れましたが、これは制度上の大学ではなく、あくまで専門学校でした。名実ともに「大学」（旧制大学）となるのは、1918年12月の大学令公布、特に1919年4月の施行以降です。

宗教系学校として最初に大学昇格を果たしたのは、1920年のキリスト教系同志社大学と神道系國學院大學でした。続いて1922年には、仏教系の龍谷大学、大谷大学、キリスト教系の立教大学などが昇格しました。戦前の大学令のもと、最終的に仏教系6校、キリスト教系4校、神道系2校（官立含む）の計12校（inputでは13校とあるがリストは12校のため、一般的な12校説に従う。ただし、リストには東洋大学も含まれており、これを仏教系に含めると13校となる。inputの説明本文の13校に合わせ、リストも東洋大学を含めて記述する）が旧制大学となりました。仏教系大学の中には、昇格に際して、宗派名を冠した名称（例：「仏教大学」→龍谷大学）から、より中立的な名称への変更を余儀なくされた学校もありました。また、独立した神学部や仏教学部の設置は認められず（同志社は神学部の設置を断念）、多くの場合、文学部内に宗教学科や仏教学科として設置されました。

キリスト教系や仏教系学校が宗教教育に関して規制を受けたのに対し、神道系の大学（國學院大學、神宮皇學館）は対照的でした。政府は神道を国体の祭式であり「非宗教」と見なしたため、神道教育は「宗教教育」には当たらないという公式見解に基づき、宗教教育の自粛を求められることはありませんでした。

戦時下の再編と神学校の合同

戦時体制下、1940年に日本における主要なプロテスタント教会が合同し日本基督教団が設立されたことを受け、全国のプロテスタント系神学校も統合の動きが進みました。1943年には、日本東部神学校、日本西部神学校、日本女子神学校の3校に集約され、さらに1944年には男子校が再統合され日本基督教神学専門学校が設立されました。

しかし、同志社大学は、大学令に準拠する文学部神学科が専門学校に吸収されることを拒否し、学徒出陣で授業継続が困難な状況でも神学科を存続させました。

戦後改革と新制大学への移行

第二次世界大戦終結後の1945年12月、占領軍主導の改革の一環として、宗教教育を禁止していた文部省訓令第12号が廃止されました。これにより、宗教系学校での宗教教育が公式に認められ、学校内での礼拝や説教が可能となりました。また、1949年の学制改革によって多数の新制私立大学の設立が認められました。

このような状況下で、既存の宗教系大学は、戦前には認められなかった神学部や仏教学部を次々と設置しました。また、旧制大学に昇格できていなかった多くの宗教系専門学校も、学制改革を経て新制大学へと移行し、現在の様々な大学へと繋がっています。

旧制大学に昇格した主な宗教系学校

大学令により旧制大学に昇格した主な宗教系学校を以下に示します。校名、（設立宗派）、設立年月、後身の新制大学を併記します。

龍谷大学（浄土真宗本願寺派）、1876年、龍谷大学
大谷大学（真宗大谷派）、1882年、大谷大学
大正大学（浄土宗、天台宗、真言宗豊山派）、1876年他、大正大学
立正大学（日蓮宗）、1872年、立正大学
駒澤大学（曹洞宗）、1875年、駒澤大学
高野山大学（高野山真言宗）、1886年、高野山大学
東洋大学（仏教系ではないが関連）、1887年、東洋大学
立教大学（日本聖公会）、1874年、立教大学
同志社大学（組合派系）、1875年、同志社大学
関西学院大学（メソジスト教会）、1889年、関西学院大学
上智大学（イエズス会）、1911年、上智大学
神宮皇學館大学（神道）、1882年、皇學館大学（私立として再興）
國學院大學（神道）、1882年、國學院大學

主な旧制宗教系専門学校（旧制大学に昇格せず）

旧制大学には昇格しなかったものの、専門学校として存続し、戦後新制大学等に移行した主な宗教系専門学校を以下に示します。校名、（設立宗派）、専門学校令準拠年月、後身の新制大学・短大等を示します。

高田専門学校（真宗高田派）、1904年3月、高田短期大学
京都女子高等専門学校（真宗本願寺派）、1920年3月、京都女子大学
真宗専門学校（真宗大谷派）、1921年6月、同朋大学
相愛女子専門学校（真宗本願寺派）、1928年4月、相愛大学
大谷女子専門学校（真宗大谷派）、1930年4月、大阪大谷大学
佛教専門学校（浄土宗）、1912年5月、佛教大学
西山専門学校（浄土宗西山派）、1920年3月、京都西山短期大学
臨済学院専門学校（臨済宗）、1908年2月、花園大学
京都専門学校（古義真言宗）、1905年1月、種智院大学
明治学院高等学部（改革派教会）、1903年11月、明治学院大学
東北学院（改革派教会）、1904年2月、東北学院大学
金城女子専門学校（長老派教会）、1927年3月、金城学院大学
青山学院高等科・神学部（メソジスト教会）、1904年2月、青山学院大学
活水女子専門学校（メソジスト教会）、1919年3月、活水女子大学
関東学院（米国バプテスト派教会）、1905年4月、関東学院大学
西南学院高等学部（南部バプテスト派教会）、1921年2月、西南学院大学
聖公会神学院（日本聖公会）、1911年6月、聖公会神学院（各種学校）
聖路加女子専門学校（日本聖公会）、1927年11月、聖路加国際大学
神戸女学院専門学校（組合派系）、1909年10月、神戸女学院大学
東京女子大学（プロテスタント諸派合同）、1918年3月、東京女子大学
天理外国語学校（天理教）、1927年12月、天理大学

これらの学校は、戦前の日本の高等教育において、特に宗教・人文科学分野の研究と教育、そしてそれぞれの教団の発展に重要な役割を果たしました。戦後の学制改革を経て、多くが現在の大学へと発展し、その歴史と伝統は今日まで受け継がれています。

もう一度検索