官奴司

官奴司：律令制における官奴婢管理機関

官奴司（かんぬし）は、古代日本の律令制において宮内省に設置された役所です。その主要な業務は、官有の賤民である官戸と官奴婢の管理と統轄にありました。具体的には、これらの民の戸籍管理や、口分田（税の負担を決定する際に基準となる田地）に関する事務を執り行っていました。

『職員令』によれば、官奴司の組織は、正、佑、令史各1名、使部10名、直丁1名から構成されていました。それぞれの役職の位階は、『官位令』に基づくと、正は正六位上相当、佑は従七位相当、令史は『大初位』相当とされています。これは、官奴司が律令制の中で、決して低位の役所ではなかったことを示唆しています。

官奴司の活動を知る上で貴重な史料として、『東南院文書』があります。天平勝宝2年（750年）2月24日付の文書には、官奴婢に関する詳細な記録が残されています。そこには、200名にも及ぶ官奴婢の人名や年齢などが記されており、官奴司の佑である凡河内伊美吉臣足や、令史である勝子僧といった職員の名前も確認できます。これらの記録は、官奴司が日常的に官奴婢の状況を把握し、管理していたことを如実に物語っています。

『続日本紀』や『日本後紀』にも官奴司に関する記述が散見されますが、官奴司は長く存続したわけではありませんでした。『類聚三代格』によると、大同3年（808年）1月20日、官奴司は主殿寮に統合され、廃止されたとされています。これは、律令制における官制の変遷、あるいは官奴婢制度自体の変容を反映していると考えられます。

官奴司は、律令制下における社会構造、特に身分制度と密接に関連する重要な機関でした。官奴婢は国家に属する労働力として重要な役割を担っており、その管理を担う官奴司の存在は、国家の運営に不可欠でした。官奴司の廃止は、古代日本の社会構造や国家運営に変化が起きたことを示す重要な出来事と言えるでしょう。

本稿では、官奴司に関する既存の史料を元に、その組織、役割、歴史的変遷について解説しました。より詳細な研究には、関連する史料の更なる精査や、官奴婢制度全体の分析が必要となるでしょう。今後の研究によって、官奴司の活動やその歴史的意義がより深く解明されることが期待されます。

参考文献

『岩波日本史辞典』p278、監修：永原慶二、岩波書店、1999年
『角川第二版日本史辞典』p237、高柳光寿・竹内理三：編、角川書店、1966年
『国史大辞典』第三巻p905、文：原島礼二、吉川弘文館、1983年
『続日本紀』5　新日本古典文学大系16　岩波書店、1998年
* 「東大寺文書 官奴司解案」、（天平勝宝二年二月廿四日）

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