官戸

官戸：律令制における特異な身分

官戸とは、中国前近代および日本の律令制において用いられた身分呼称です。それぞれの社会において、その地位や役割は異なっていました。本稿では、中国と日本の官戸について、その歴史的変遷や社会的地位、待遇などを詳細に解説します。

中国における官戸

唐代において、官戸は官庁に隷属する官賤民の一種でした。身分階層としては、太常音声人や雑戸の下、官奴婢の上に位置づけられていました。官庁、例えば司農寺などに籍を有し、年間3番の交代制で1ヶ月ずつ勤務する形式を取っていたとされます。

官戸の中でも、少府や太常寺に勤務し、特別な技能を持つ者は工戸や楽戸と呼ばれ、優遇されていました。良民の半額に相当する口分田（40畝）の支給が認められ、婚姻は同一身分内でのみ許されていました。長年の勤務や高齢になれば、雑戸への昇格や良民への解放が認められるケースもありました。

北宋以降は、官戸の概念が変化しました。官吏やその親族の屋敷を指すようになり、一般庶民と区別する用語として用いられるようになりました。唐代後期からは、在地の地主や有力者が行政事務の末端を担うようになり、「形勢戸」と呼ばれるようになりました。官戸と形勢戸は、官戸形勢戸、あるいは形勢官戸として地域社会における支配勢力となりました。その範囲は現職の文武官から、徴税や官物輸送などの職務を担う者、胥吏などにまで及びました。彼らは五段階の戸等制において上位に位置づけられ、徭役の免除や税の減免などの特権を得ていました。

北宋末期の政和年間には限田法が実施され、一定以上の土地を持つ官戸に対しては、所有地の規模に応じて差役や科配が課せられるようになりました。南宋時代には、官戸の免役特権を制限する政策が数多く施行されました。明清時代の郷紳は、官戸形勢戸の後継者と言えるでしょう。

日本における官戸

日本の律令制において、官戸は五色の賤（陵戸、官戸、家人、官奴婢、私奴婢）の一つに分類されました。宮内省の管轄下にあり、官奴司に配属され、使役されました。宮内省または官奴司が名簿を作成し、管理していました。

官戸は官奴婢よりも上位の身分とされ、戸単位で全員が強制的に使役されることはありませんでした。官奴婢が66歳以上になったり、病気で働けなくなった場合は官戸とされ、76歳以上（反逆罪を犯した者の場合は80歳以上）になると解放されて良民となることができました。官戸は同身分との婚姻が規定されており、謀反や大逆罪を犯した者の父子で、没官されたものの戸籍を許された者なども官戸に分類されていました。官奴婢と同様に、良民と同額の口分田の支給や、休暇、産休などの制度が適用され、衣食住が提供されました。

720年（養老4年）には、臨時に官戸が良民に、官奴婢が官戸に転じた例が見られますが、740年（天平12年）の「浜名郡輸租帳」では、良民の戸を官戸と称していることから、8世紀前半までに、賤民としての官戸の実態は消滅したと考えられています。また、医疾令には、官戸や官婢の中から女医を採用する規定があったことが記されています。

まとめ

中国と日本の官戸は、時代や社会情勢によってその定義や役割が変化しました。しかし、いずれの場合も、官戸は国家や官僚機構と密接に結びついた特異な身分であり、その社会的地位や待遇は、時代の変遷とともに変容を遂げていったことが分かります。

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