宝物集

宝物集：平安時代の仏教説話集

『宝物集』は、平安時代末期（治承年間、1177年～1181年）に編纂された仏教説話集です。著者は平康頼（たいらのやすより）、法名は性照。別名に「康頼宝物集」があります。

版本の多様性と内容

現存する『宝物集』は、巻数にばらつきがあり、一巻本、二巻本、三巻本、七巻本など複数の版本が存在します。本文の内容にも差異が見られ、最も原型に近いのは一巻本と考えられています。

嵯峨釈迦堂（清涼寺）を舞台に、僧と俗の人々の対話形式で物語が展開され、多くの説話が引用されています。全体は大きく4部に分けられ、前半2部は導入部的な役割を果たしています。物語の中心は、後半の2部で展開される「この世で最も大切な宝物とは何か？」という問いかけとその答えです。

最終的に結論づけられるのは、「仏法こそが最高の宝物である」ということです。世間の富や名声といったものは、喜びと悲しみを同時に生む両刃の剣である一方、仏法は世俗を超えた永遠の価値を持つと説かれています。

著者の平康頼

作者の平康頼は、後白河院の北面武士であり、検非違使兼左衛門尉を務めていました。しかし、安元3年（1177年）の鹿ケ谷の陰謀に関与し、鬼界ヶ島（薩摩沖の硫黄島）に流刑となります。翌年には、中宮徳子平産による大赦で帰京し、その後は東山双林寺で生活を送り、『宝物集』を著しました。この経験が、作品に深く反映されている可能性があります。

研究と版本

『宝物集』は、様々な版本が存在することから、研究対象としても注目されています。現在では、『新日本古典文学大系40』（岩波書店）に、第二種七巻本系統の吉川本が底本として収録され、全巻に注釈が施されたものが刊行されています。

他に、一巻本、二巻本、三巻本など様々な版本があり、それぞれが異なる特徴を持っています。これらの版本を研究することで、『宝物集』の成立過程や、当時の社会情勢、仏教観などを深く理解することが期待できます。

多くの研究者によって、様々な版本の翻刻や研究が続けられており、その成果は学術雑誌や書籍などに発表されています。これらの研究成果を参照することで、『宝物集』をより深く理解することができるでしょう。

参考文献

『宝物集』に関する研究は数多く存在します。版本ごとの差異を比較検討した研究や、平康頼の生涯や思想を探る研究、そして『宝物集』に含まれる説話や仏教思想を分析した研究など、多角的なアプローチがなされています。これらの研究成果を参考に、『宝物集』を多様な視点から読み解くことが可能です。

例えば、森晴彦氏の『宝物集』諸本の翻刻一覧に関する研究は、多様な版本の現状を把握する上で非常に役立ちます。また、山田昭全氏の平康頼伝記研究は、著者の背景を理解する上で重要な手がかりとなります。これらの研究成果は、単に『宝物集』のテキスト理解にとどまらず、平安時代末期の社会や文化、宗教観などを理解する上でも貴重な資料となります。

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