平康頼

平康頼：後白河法皇に仕えた武士の生涯

平康頼は、平安時代中期の武士であり、その生涯は数々のドラマチックな出来事に彩られています。明経道の家柄である中原氏に生まれた康頼は、若くして平保盛の家臣となり、越前国、尾張国と各地を転々とし、卓越した能力を発揮しました。特に尾張国での活躍は、彼の名声を大きく高めることになります。

当時、尾張国知多郡野間荘には、平治の乱で戦死した源義朝の墓がありましたが、荒れ果てていました。康頼は、国司である保盛の許可を得て、この敵将の墓を修復し、堂を建て、僧侶を配置して念仏を唱えさせ、さらに水田30町歩を寄進しました。この行為は京の都にまで伝わり、後白河法皇の耳にも届きます。法皇は、康頼の行為を武士道の精神に基づいた立派な行いとして高く評価し、彼を近習として引き立てました。平家一門からも、敵将の墓を弔った康頼の行動は高く評価され、平家の名声を高めるものとして賞賛されました。

後白河法皇の近習となった康頼は、法皇の熊野参詣や東大寺への参詣にも随行するなど、絶大な信頼を得ていました。さらに、法皇が愛好していた今様（当時の流行歌）においても、康頼は優れた才能を発揮し、美声と声量で知られた名歌い手として、法皇から寵愛を受けていました。

承安4年（1174年）、康頼は北面の武士から検非違使・左衛門大尉に任ぜられ、「平判官」と呼ばれるようになります。しかし、安元3年（1177年）、康頼は運命の歯車を大きく動かす事件に巻き込まれます。鹿ケ谷の陰謀です。平家打倒を企てた密議に参加した康頼は、密告により発覚し、藤原成親、西光、俊寛らとともに捕らえられ、薩摩国鬼界ヶ島に流罪となります。流罪の途上、康頼は出家し、性照と名乗りました。配流先での生活は過酷でしたが、康頼は信仰心を深め、京への帰洛を願って熊野三所権現を勧請したと伝えられています。

やがて、康頼と藤原成経は、千本の卒塔婆に望郷の思いを込めた歌を書き、海に流しました。そのうちの一本が安芸国厳島に流れ着き、これをみた平清盛は、康頼と成経を赦免します。治承2年（1178年）、康頼は赦免され京へ戻り、伯母が尼となっていた東山の雙林寺で、『宝物集』という仏教説話集の編集・執筆に携わりました。また、歌人としても活躍し、多くの歌が勅撰和歌集に採録されています。

平家滅亡後、康頼は源頼朝に仕え、天領阿波国麻植保の保司に任ぜられました。これは、かつて頼朝の父・源義朝の墓を整備・追善したことに対する恩義の報いでした。しかし、康頼の子孫の運命は、平家の滅亡後も波乱に満ちたものでした。承久の乱では、康頼の子孫が幕府と対立し、没落の道を辿ることになります。

康頼の生涯は、武士としての活躍、信仰心の深さ、そして歌人としての才能など、多様な側面を見せています。また、彼の子孫の辿った運命は、平安時代末期から鎌倉時代にかけての激動の時代を象徴するものでもあります。康頼の墓は、愛知県美浜町の大御堂寺と徳島県鴨島町にある康頼神社の脇に現存しており、今もなお人々の記憶に深く刻まれています。

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