宮城千賀子

宮城千賀子（みやぎ ちかこ）は、日本の女優です。1922年（大正11年）11月26日に岩手県盛岡市で生まれ、1996年（平成8年）8月7日に73歳でその生涯を終えました。本名は佐藤ユキといい、宝塚歌劇団在団中は「東風うらゝ（こち うらら）」の芸名で活動。映画、舞台、テレビと多岐にわたる分野で活躍し、「ベコちゃん」「ユキちゃん」「お千賀さん」といった愛称で多くの人に親しまれました。

熊谷尋常高等小学校を卒業後、1935年（昭和10年）に13歳で宝塚歌劇団の第25期生として入団。「東風うらゝ」の名のもと、男役として宝塚の舞台で活躍しました。

1940年（昭和15年）初め、17歳で宝塚を退団し、日活に入社して映画界へ転身します。そのデビュー作は、稲垣浩監督、片岡千恵蔵主演の『宮本武蔵』でした。中でも「お通」役は一般公募も行われるほどの重要な役で、最終的に宝塚の生徒から選ばれることになります。しかし、過去に宝塚からの引き抜きで騒動となった経験から、日活側は慎重でした。稲垣監督は研究生「東風うらゝ」に注目し、密かに舞台を観劇しますが、多くの生徒の中から彼女を見分けるのは容易ではありませんでした。そこで、ファンを装ってすき焼き屋に誘い出し、隠し撮りした写真で彼女の起用を決定。稲垣監督は、体格は良かったものの、色気のない素朴さが「お通」のイメージに合致すると感じたといいます。

引き抜き工作は周到に行われました。日活の製作部長を彼女の叔父に仕立て、「母が危篤」という偽の連絡で退団を促しました。無事東京に到着したものの、尾行されていることに気づき、急遽上野駅から仙台行きの列車で逃亡。たどり着いた先が宮城県千賀村だったことから、「宮城千賀子」という芸名が生まれました。撮影所では、出身地の岩手にちなんで「ベコちゃん」と呼ばれ、愛されました。

1941年（昭和16年）11月26日、日活京都撮影所で助監督を務めていたマキノ真三と結婚。彼は映画界の巨匠マキノ省三の三男であり、実兄マキノ正博も監督として活躍していました。マキノ正博の妻である女優・轟夕起子もかつて『宮本武蔵』でお通を演じていたことから、「お通が二人マキノ家に嫁いだ」と当時話題となりました。

結婚後の1942年（昭和17年）、大ヒットした木村恵吾監督作品『歌ふ狸御殿』への出演を最後に一度芸能活動を休止し、家庭に入ります。翌年には長男を出産しましたが、1943年（昭和18年）の年末には、夫マキノ真三らが監督した『海賊旗吹っ飛ぶ』で映画に復帰。この頃から「劇団なでしこ」を結成し、舞台公演の地方巡業にも力を入れるようになります。

戦後、1946年（昭和21年）には夫とともに「マキノ芸能社」を設立し、劇団活動に加え映画製作も行いましたが、これは1948年（昭和23年）に解散。1952年（昭和27年）からは再び映画出演が増え、翌年半ばには夫と離婚しました。

その後も多数の映画に出演を続けましたが、主演を務めた「落日の決闘」の後、「気のすすまない主役をやるより、わずかな出演場面でもやりたい役をやるほうが自分の気がすむ」として、脇役に徹する決意を固めます。1955年には自主製作グループ「まどかグループ」に参加し、『花ひらく』などに出演。1956年から数年間は出演本数を抑えた時期もありました。1963年以降はフリーとして活動し、日活や東映の作品に出演しましたが、1971年の『不良番長・手八丁口八丁』以降は映画界から遠ざかります。

一方、舞台活動は続け、1965年には14年ぶりに新宿コマ劇場の舞台に立ちました。1970年代には脳軟化症で入院しましたが、病を乗り越え、1974年には橋幸夫のハワイ公演に参加するなど、再び舞台に復帰しています。

熟年期を迎えた1975年（昭和50年）10月からは、テレビ朝日系列のバラエティ番組『独占!女の60分』にサブ司会としてレギュラー出演。水の江瀧子らと共演し、1987年（昭和62年）3月まで長きにわたり番組を支え、お茶の間の人気者となりました。他にも、『うちの奥さん 隣のママさん』やドラマ『白い巨塔』（1967年版）など、多くのテレビ番組に出演しています。

姉御肌ともいわれた芸風でしたが、日活への引き抜きに関わった稲垣監督は、当時の彼女を振り返り、「おかしくもあり、かわいくもあり…」「ひじょうに日本的なやさしい女性である」と語っており、その人柄には優しさや愛嬌も兼ね備えていたことがうかがえます。

1991年公開の鈴木清順監督作『夢二』が遺作となりました。精力的に活動を続けた宮城千賀子は、1996年（平成8年）8月7日、急性肺炎により73歳で亡くなりました。宝塚で培った表現力と、映画、舞台、テレビで磨かれた確かな演技力、そして飾らない人柄で、日本のエンターテインメント界において確かな存在感を示し続けた女優でした。

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