家族・私有財産・国家の起源

『家族・私有財産・国家の起源』

フリードリヒ・エンゲルス著の『家族・私有財産・国家の起源』は、1884年に初版が出版された重要な社会科学の古典です。この著作は、彼の晩年における大作の一つとされ、国家や一夫一婦制、私有財産、奴隷制度、賃労働といったテーマに歴史的視点を与えています。

著作の中で、エンゲルスはこれらの社会構造の歴史的な起源とそれに伴う変遷に焦点をあて、これらの制度がどのように形成されたのか、またどのように変化し続けるのかを探求しました。彼は特権的な制度はもちろんのこと、一般的に認識されている既成の歴史解釈に対抗し、それらが歴史的な条件の下で成立し、やがて解消される可能性を示唆しました。

翻訳の経緯と著作の構成

本書は、1908年に堺利彦によって『男女関係の進化』として翻訳されましたが、当時の社会的弾圧を避けるために一部の内容が省略されました。現在では、岩波文庫や新日本出版社などから出版されています。

著作は全9章から構成されており、それぞれが異なる文化的背景や歴史的事例を描写しています。

• - 第1章：先史の文化諸段階
• - 第2章：家族
• - 第3章：イロクォイ族の氏族
• - 第4章：ギリシャの氏族
• - 第5章：アテナイ国家の成立
• - 第6章：ローマの氏族と国家
• - 第7章：ケルト人とドイツ人の氏族
• - 第8章：ドイツ人の国家の形成
• - 第9章：未開時代と文明時代

執筆の背景

エンゲルスはこの著作を執筆するにあたり、カール・マルクスの遺稿を整理する過程でインスピレーションを受けました。マルクスは生前、古代社会や共同体の研究に没頭しており、その成果をエンゲルスが引き継いでいます。マルクスの研究成果が未完成のまま残されたため、エンゲルスはそれらを基に自らの論考を展開しました。

家族と私有財産の形成

本書の中心的な議論の一つは、家族形態の進化と私有財産の起源です。エンゲルスは、初期の共同体においては、資源の共有が基本の社会だったと指摘し、一夫一婦制の形成が私有財産制とどのように結びつくのかを分析しています。特に、農業の発展がいかに私有財産を生み出し、結果的に父系制への移行を促したかが肝要です。彼は、家族制度は時代とともに変化し続け、経済の発展と共に女性の地位が低下していく過程を描写します。

国家の歴史的意義

続く章では古代ギリシアやローマにおける氏族制度と国家の誕生について論じ、自立性を保持した氏族がどのようにして国家へと進化したかを考察しています。エンゲルスは、国家が貴族や特権階層によって支配され、結局労働者階級による搾取を続ける存在であることを示し、権力の構造を明らかにします。

将来展望と歴史の見方

エンゲルスは、将来的には社会主義革命を通じて生産手段が共同所有に移行し、国家が廃止されることで、より平等な社会が実現される可能性を示しました。この理論は後のマルクス主義の基盤となり、社会全体の解放の視座を提供します。

影響と批判

『家族・私有財産・国家の起源』は、エンゲルスの思想がその後の社会学やフェミニズムに与えた影響を考える上で重要です。彼の提言は、男性優位の社会構造の批判や女性解放の思想に道を開きましたが、一方ではその視点が近代的な価値観に基づくものであり、批判の対象ともなっています。こうした議論は現代においてもなお重要なテーマとなっています。

このように、エンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』は、社会科学の視点から歴史を問い直し、制度の変遷と未来の展望を検討するうえで不可欠な作品であり、その意義は今もなお色褪せていません。

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