富井清

富井 清（とみい きよし）は、1903年（明治36年）3月28日に生まれ、1974年（昭和49年）5月19日に71歳で死去した人物です。政治家、医師、そして尺八奏者という多面的な顔を持ち、特に京都において、医学博士として医療・公安分野で活動したほか、一期ではありますが京都市長として市政を担い、福祉政策に力を尽くしました。また、尺八都山流の最高位である竹淋輔の称号を持ち、京都の三曲界を代表する存在でした。別号に富井舜山があります。

三重県出身。1925年（大正14年）に金沢医科大学医学専門部を卒業後、京都府立医科大学眼科副手を経て、京都府保険医協会理事長、京都府医師会長、京都府公安委員などを歴任し、医療界や公安行政に貢献しました。

政治の世界に入るきっかけとなったのは、1967年（昭和42年）1月8日の当時の京都市長・井上清一の死去でした。これに伴って同年2月26日に行われた市長選挙に、革新勢力からの推薦を受けて立候補します。

選挙では、自由民主党と民社党が推す八杉正文との一騎打ちを制し、初当選を果たしました。京都市長としての任期は一期四年（1967年〜1971年）でした。

市長在任中、富井は特に福祉政策を重視しました。京都市独自の事業として心身障害者扶養共済事業条例を施行し、また全国に先駆けてろうあセンター（現在の京都市聴覚言語障害センター）を開設するなど、障害者支援体制の整備に積極的に取り組みました。

経済面では、当時の京都府知事であった蜷川虎三と共に、中小企業向けの無担保無保証人融資制度を開始しました。この制度は、その後の全国各地の自治体にも広がり、先進的な取り組みとして知られるようになりました。

しかし、市政運営においては困難にも直面しました。1970年（昭和45年）、赤字を抱える京都市電の早期撤去などを内容とする交通再建計画案を巡り、当時の与党であった日本共産党との間に大きな亀裂が生じました。

同年9月5日には病に倒れ、同年9月28日からの市議会定例会では助役が市長職務代理者を務める事態となりました。体調不良もあり、1971年（昭和46年）の京都市長選挙には出馬せず、これを機に政治活動の一線から退きました。

富井清のもう一つの重要な側面は、尺八奏者としての活動です。17歳で独学で尺八を習得し、1921年（大正10年）に都山流の藤井隆山に入門しました。以降、研鑽を積み重ね、奥伝、師範、大師範と順調に昇段し、1941年（昭和16年）には都山流における最高の称号である竹淋輔を授与されました。

彼は都山流の発展に尽力するとともに、清香会のオーガナイザーとして三好芫山や小山菁山といった優れた後進の指導・育成にあたりました。その功績から、富井清は京都の三曲界における重鎮と仰がれる存在となりました。

1974年（昭和49年）5月19日、急性気管支肺炎のため、京都市伏見区の自宅にて死去。享年71。

主な参考文献としては、『新訂 政治家人名事典 明治～昭和』（日外アソシエーツ、2003年）などが挙げられます。また、関連人物として、京都府知事の蜷川虎三や、後任の京都市長となった高山義三などがいます。

もう一度検索