富士松ぎん蝶

富士松ぎん蝶: 音曲師の名跡

富士松ぎん蝶（ふじまつ ぎんちょう）は、音曲師として知られる名跡です。今は空き名跡の状態ですが、これまで数人の演者たちがその名を受け継いできました。彼らの多才な才能や独自の技法が織り成す芸は、時代を超えて愛されてきました。

初代：幼少期からの恩恵

初代の富士松ぎん蝶については、生没年が不詳ですが、初代扇歌の門下で修行をしたことが知られています。彼は当初に幼坊福寿として活動をスタートし、その後富士松ぎん蝶の名を名乗るようになりました。彼の活躍時期は天保の末から明治10年代にかけてで、新内浮かれ節を得意としていました。彼の本名については資料が残っていないため、詳細は不明です。

2代目：困難を乗り越えた芸人

2代目ぎん蝶（1864年 - 1908年）は、著名な音曲師の家系に生まれました。父は2代目鼠遊亭鉄扇、兄には3代目柳亭左楽を持ちましたが、彼自身は4歳の時に天然痘により失明しました。幼少期から音楽に親しみ、12歳で兄のもとで修行を開始した彼は、1886年に真打となり、京橋金沢亭で2代目ぎん蝶の名を襲名します。彼の技は、三味線に限らず木琴や太鼓、鼓なども用いた多才なものでした。

彼のパフォーマンスは、6代目三遊亭圓生によれば、技巧的というよりも達者で、観客を楽しませる愛嬌があったとされています。また、彼の演奏は英国グラモフォンからSPレコードとしてもリリースされ、広く知られる存在となりました。名実ともに世間に知られた彼は、高山久次郎という名を持っています。

3代目：伝統の維持者

3代目ぎん蝶（1890年 - 1985年）も若い頃に病気で失明し、その影響を受けながらも音楽の道を選びました。3代目柳亭燕路の門下に入り、後には2代目三遊亭小圓遊のもとで修行を重ねました。1912年に3代目ぎん蝶として名跡を襲名します。

戦後の日本において、彼は古豪として知られる存在でありながらも、活動は限られていました。彼が周囲から広く認められたのは、名跡の襲名が関係者の間でのみ認められるという例外的な形でした。3代目は特に都々逸の演技において、その才能を発揮したと伝えられています。

終わりに

このように、富士松ぎん蝶の名跡には、それぞれの時代に異なる個性を持った演者たちが存在しました。音楽の持つ力を通じて、彼らは観客と深く結びつき、今もなおその名は日本の伝統芸能において特別な位置を占めています。

もう一度検索