柳亭左楽

柳亭左楽

柳亭左楽（りゅうてい さらく）は、江戸時代後期から続く落語家の名跡であり、現在活躍しているのは六代目にあたります。この名跡は、初代から当代まで、様々な個性を持つ噺家たちによって継承されてきました。

各代の柳亭左楽

初代

初代柳亭左楽については、詳しい経歴は明らかになっていません。

二代目

俗称を新治郎と称し、明治5年（1872年）から明治6年（1873年）頃に亡くなったと伝えられています。

噺家になる前の経歴については、二つの説があります。一つは、江戸日本橋旅籠町の平右衛門の息子として生まれ、堀留の呉服店で奉公した後、噺家になったという説。もう一つは、浅草寺境内の茶屋前に捨てられていた幼子を龍蔵と名付け、噺家になったという説です。

天保3年（1832年）から天保4年（1833年）頃、三代目司馬龍生の門に入り、龍我と名乗りました。龍生の没後、兄弟子が龍生の名跡を継ぎますが、自身は初代林屋正蔵の娘であるみいの養子となり、嘉永3年（1850年）から嘉永4年（1851年）頃に三代目林屋正蔵を襲名します。林家一門とは血縁関係がない人物が正蔵を継いだため、一門から反感を招いたと伝えられています。正蔵のお家芸である怪談噺を得意とし、人気を博しました。その後、妻と離縁し、かつての師である龍生の妻で女髪結いのきくと再婚しました。

安政4年（1857年）正月には、初代春風亭柳枝の尽力によって両国垢離場の初席で二代目左楽を襲名します。左楽襲名後は滑稽噺を中心に演じました。生没年の詳細は不明ですが、明治5年から6年頃、40歳代で没したとされます。「歯抜けの左楽」「歯っ欠けの左楽」という俗称で呼ばれました。妻は富士松加賀尾、実娘は四代目林家正蔵門下の小せんがいます。

門下からは、二代目都屋歌六、柳亭左蝶、春風亭やなぎ、初代柳亭左龍、三代目三升家勝次郎、三代目柳亭左楽、初代帰天斎正一など、多くの噺家や芸人が育ちました。

三代目

本名は高山長三郎といい、安政3年（1856年）生まれで、明治22年（1889年）12月4日に33歳で夭折しました。二代目の弟子にあたります。天才肌と称され、特に芝居噺を得意としましたが、若くして世を去りました。

初めは二代目の門下で柳亭左市と名乗り、明治6年（1873年）から翌年にかけての十代の若さで三代目を襲名し、真打に昇進しました。父は二代目鼠遊亭鉄扇（一説には春風亭柳賀）とされます。中村秀五郎、中村鶴若、二代目富士松ぎん蝶は実弟にあたります。「左市左楽」とも呼ばれました。

門下には瀧川鯉橋（「赤鼻の鯉橋」）らがいました。

四代目

本名を福田太郎吉といい、安政3年（1856年）1月2日生まれ、明治44年（1911年）11月4日に没しました。ネタ数は多くなかったものの、滑稽噺を得意としました。

江戸浅草山の宿の質屋「福田屋」の息子として生まれました。14、15歳頃からアマチュアの寄席に出て腕を磨き、19歳となった明治7年（1874年）に初代談洲楼燕枝の門下に入り、燕多と名乗ります。明治10年（1877年）から翌年にかけては三代目春風亭柳枝の門に移り、路喬と改名しました。明治16年（1883年）には初代柳家枝太郎と改名し、翌明治17年（1884年）に真打に昇進します。

明治26年（1893年）12月に四代目を襲名。明治37年（1904年）から明治40年（1907年）にかけて柳派の頭取を務めました。明治42年（1909年）頃から脳の病気により高座を休演することが多くなります。明治44年（1911年）正月の初席で五代目に名跡を譲り、引退後間もなく亡くなりました。明治42年には「左楽滑稽落語集」が出版されています。

門下からは五代目七昇亭花山文、四代目都家歌六、船遊亭志ん橋、五代目柳亭左楽、三代目三遊亭金朝、柳家燕花、川上秋月、柳亭左若、四代目柳家枝太郎、五代目雷門助六、柳家紫朝などが育ちました。数枚のSPレコードが現存しています。

五代目

五代目柳亭左楽（本名：中山千太郎）は、明治5年（1872年）4月12日生まれ、昭和28年（1953年）3月25日に没しました。明治、大正、昭和の三時代にわたり、落語界に大きな影響力を持った実力者として知られています。

東京日本橋の生まれで、元は箱屋の職人でした。アマチュアの天狗連出身です。明治21年（1888年）11月、春風亭柳勢に入門し、勢太郎を名乗ります。明治28年（1895年）7月には初代柳亭春楽と改名。翌年2月には講談師の伊藤痴遊に師事し、春風舎痴楽となります。

明治30年（1897年）6月頃、四代目柳亭左楽の門に移り、二代目柳家枝太郎を襲名しました。明治32年（1899年）10月には初代柳亭芝楽を襲名。この頃、日露戦争に輜重兵として従軍し、その経験談を高座で語って好評を得ました。明治39年（1906年）2月には騎江亭芝楽と改名。明治44年（1911年）正月の初席で五代目を襲名しました。

大正14年（1925年）3月2日、現在のNHKの前身にあたる社団法人東京放送局の試験放送2日目において、『女のりんき』（「悋気の火の玉」とされる）を高座にかけ、日本の放送史上初めて演芸を電波に乗せた人物として知られています。しかし、その内容が逓信省から「公序良俗に反する表現がある」と問題視され、苦情が入りました。当時は放送内容について政府による厳しい規制があった時代です。

昭和2年（1927年）には落語家団体の「睦会」会長に就任しました。芸の評価よりも、政治力と人望の篤さをもって、落語界の指導的な立場にあったとされます。晩年に引退を表明しましたが、引退披露を前に世を去りました。その葬列は、池之端の自宅から鈴本演芸場、上野駅を巡るという盛大なものとなりました。戒名は「柳条讃誉五代目左楽居士」、墓所は東上野の明順寺です。平成14年（2002年）には新宿末廣亭で「五代目柳亭左楽五十回忌追善興行」が行われ、当代である六代目がトリを務めました。

多くの弟子を育て、四代目都家歌六、柳亭右楽、柳亭芝鶴、七代目春風亭柳枝、八代目三笑亭可楽、八代目桂文楽、八代目雷門助六、三代目柳亭痴楽、四代目柳亭痴楽などがいます。色物では曲独楽のやなぎ女楽も門下です。

六代目

六代目柳亭左楽（本名：原田昌明）は、昭和11年（1936年）12月14日生まれの落語家です。広島県竹原市出身。落語協会所属。出囃子は「毛谷村の物着」、紋は「かたばみ」。先代の孫弟子、曾孫弟子、玄孫弟子といった複雑な系譜を辿っています。

広島県立竹原高等学校を卒業後、昭和32年（1957年）5月に八代目桂文楽に内弟子として入門し、前座名「桂文平」を名乗ります。昭和36年（1961年）、初代柳家さん八と共に二ツ目に昇進。昭和46年（1971年）12月に師の文楽が死去。師の筆頭弟子である六代目三升家小勝も病没したため、次位の七代目橘家圓蔵の門に移ります。

昭和48年（1973年）10月、林家木久蔵ら多くの噺家と共に真打に昇進。昭和50年（1975年）3月には第4回放送演芸大賞落語部門ホープ賞を受賞しました。昭和55年（1980年）5月、二番目の師である七代目橘家圓蔵が死去し、その弟子である三代目月の家圓鏡の門下に移りました。三代目圓鏡は本来は甥弟子にあたる立場であり、師である圓蔵とはキャリアや年齢が近かったものの、改めてその門下に入った形です。

平成13年（2001年）3月、「六代目柳亭左楽」を襲名。平成31年（2019年）4月からは出身地の広島県竹原市に帰郷し、そこを拠点に活動しています。令和4年（2022年）8月に三遊亭金翁が死去したことに伴い、落語協会所属の落語家としては最年長となりました。

人物としては、息子が東京會舘に26年間勤務し、その後豊島区南大塚で西洋料理と欧風カレーの店「シェ・ハラダ」を営んでいましたが、平成30年（2018年）10月に閉店しています。また、鶏肉を極めて苦手としており、全く受け付けないといいます。

出囃子は、昭和36年から平成13年（襲名）まで「キユーピー」を、それ以降は「毛谷村の物着」を使用しています。

六代目柳亭左楽は、落語協会ウェブサイトやX（旧Twitter）、Instagram、Facebookなどのソーシャルメディア、公式ホームページで情報発信を行っています。

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