富民侯

富民侯（ふみんこう）は、古代中国の前漢時代に存在した列侯の一つです。紀元前89年から紀元前71年までの短い期間でしたが、前漢の歴史において重要な意味を持っています。

富民侯の封地は沛郡の蘄県（現在の安徽省宿州市あたり）に置かれました。列侯が封じられると、その土地は県ではなく「国」と呼ばれることが一般的であったため、当時は「富民国」と呼ばれていたと考えられます。富民侯となったのは、田千秋（でんせんしゅう）と、その子の田順（でんじゅん）の2人のみです。

富民侯の始まりは、漢の武帝（ぶてい）が丞相（じょうしょう、宰相のこと）であった田千秋を列侯に封じた時でした。通常、侯の称号は封じられた土地の名前にちなんで付けられますが、富民侯の場合は例外です。武帝は在位中、積極的に対外遠征を行い、領土を拡大しました。しかし、度重なる遠征は国内に大きな負担を強いることになり、晩年の武帝は自身の征伐を深く悔やみました。その悔恨の念から、「民を富ませたい」という願いを込めて、田千秋に「富民侯」の称号を与えたのです。

当初、富民侯の領地は800戸でしたが、武帝が亡くなる直前の後元2年（紀元前87年）に、遺詔によって1600戸にまで拡大されました。これは、武帝の民への想いを表すものであり、富民侯の重要性を示すものでもあります。

田千秋の死後、その地位は子の田順が継ぎました。しかし、田順は罪を犯し、自殺という形でその生涯を終えます。これにより、富民侯はわずか2代で断絶することとなりました。

富民侯の系譜

田千秋：征和4年（紀元前89年）6月丁巳に封じられ、元鳳4年（紀元前77年）1月甲戌に死去。
田順：元鳳4年（紀元前77年）に跡を継ぎ、本始3年（紀元前71年）に自殺。

参考文献

班固 著、小竹武夫 訳『漢書』1 - 8 、筑摩書房（ちくま学芸文庫）、1998年。
中央研究院「漢籍全文資料庫」

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