寛保二年江戸洪水

寛保二年江戸洪水（1742年）

寛保二年江戸洪水は、寛保2年（1742年）の旧暦7月から8月にかけて江戸を襲った未曾有の大水害です。この災害は、台風による暴風雨、高潮、そして河川の氾濫が複合的に発生したもので、江戸の町に甚大な被害をもたらしました。

災害の経過

洪水前

寛保2年7月28日頃から、台風によるものと見られる暴風雨が畿内を襲い、関東地方でも雨が降り始めました。8月1日の夜には、江戸で北東の激しい風が吹き始め、その後、南風に変わって激しい荒天となりました。

災害の発生

この南風が江戸湾からの高潮を隅田川や荒川に引き起こし、8月2日の明け方から水位が上昇しました。満潮時には、場所によっては平常水位よりも8～9尺も上昇し、江戸の下町は海水に浸かりました。しかし、この時の潮の勢いはそれほど激しくはなく、潮が引き始めると水位も下降しました。

ところが、同時期に利根川、荒川、多摩川の上流域で発生した大洪水の水が江戸方面に流れ込みました。特に、堤防が決壊した利根川の水流は、関宿城を押し流した後、江戸下町を直撃しました。8月3日の夜には、水が引き始めて安堵していた江戸下町に再び水が押し寄せました。水位の上昇は8月7日まで続き、本所、浅草、下谷一帯だけで900名以上の溺死者が出ました。町奉行の報告によると、本所では街中の水位が5尺、多い場所では7尺に達し、軒まで水没した家屋が続出したとのことです。また、両国橋、新大橋、永代橋など、多くの橋が流失しました。

減水し始めた8月8日には、再び暴風雨が江戸を襲い、水位が上昇しました。浅草や下谷では、ついに水位が1丈に達し、水が引くまでに更に日数を要しました。

幕府は、船をかき集めて川と街路の区別が付かなくなった下町に派遣し、流されている人々や屋根の上で震える人々を救出しました。さらに、被災者には粥や飯が支給されました。記録によると、食料の支給を受けた人数は、8月6日で6000人分、被害のピークであった8日には1万人分、水が引いて支給を昼のみに限定した16日でも7000人分を要しました。また、被害の少なかった江戸の有力町人の中には、独自に炊き出しを行った者もいました。

西国大名の手伝い普請

幕府は、安濃津藩、備前藩、長州藩、肥後藩など、被害の少なかった西国諸藩10藩に命じて、利根川や荒川などの堤防や用水路の復旧に当たらせました。これは「手伝い普請」と呼ばれ、幕府が必要な資材を負担する代わりに、各藩が人足や運賃などを負担するものでした。各藩は家老級の重臣を惣奉行に立て、家臣団を被害現場の復旧に派遣しました。

例えば、肥後熊本藩は、江戸川、庄内古川、古利根川、中川、横川、綾瀬川の普請を担当しました。熊本藩の場合、総出費は12万7280両に達しましたが、幕府からの褒賞は他の小藩よりも少なかったとされています。

災害の原因と影響

諸記録から、台風と見られる雨雲は江戸の西方から北東に進み、関東と信州に記録的な大雨をもたらしたと推定されています。この水害は、江戸の都市機能に深刻な影響を与えただけでなく、西国大名の財政を圧迫するなど、社会全体に大きな影響を及ぼしました。

江戸三大洪水

寛保の洪水は、江戸時代に発生した三大洪水の一つに数えられています。

寛保の洪水：寛保2年（1742年）
天明の洪水：天明6年（1786年）
弘化の洪水：弘化3年（1846年）

関連項目

戌の満水
* 奥貫友山

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