奥貫友山

奥貫友山（おくぬき ゆうざん）

奥貫友山は、宝永5年（1708年）に生まれ、天明7年11月10日（1787年12月19日）に没した江戸時代の儒者、教育者、そして慈善家として知られています。

生涯

武蔵国久下戸村（現在の埼玉県川越市大字久下戸）で、奥貫正清の子として生を受けました。正卿という名を持ち、伯雅という字（あざな）を使っていました。また、五平次という通称でも呼ばれていました。

久下戸村の名主を務める傍ら、幕府の儒官であった成島錦江に師事し、細井平洲や青木昆陽といった著名な学者とも交流を深めました。その後、故郷の村に戻り、明和元年（1764年）に私塾を開設し、地域の子どもたちの教育に尽力しました。

寛保の大洪水における救済活動

寛保2年（1742年）8月、台風による記録的な大雨が関東地方を襲い、荒川や利根川などの河川が氾濫し、江戸時代最大規模の大洪水が発生しました（寛保の大洪水）。川越藩領内でも甚大な被害が出て、被災した村は28に及び、被災民は近隣を含めると10万人を超えたと伝えられています。

友山は、この未曽有の災害に対し、率先して救助活動に奔走しました。自身の財産である米25俵、麦70石、雑穀266石などを被災した農民に提供し、自ら粥を炊き出し、食料を分け与え続けました。この活動によって、1万6000人もの命を救ったと言われています。さらに、自身の田畑を担保に江戸の商人から資金を調達し、食料を買い続けて1年もの間、困窮した人々を支援しました。最終的には、48ヶ村、10万6千人の命を救ったとされています。また、水塚と呼ばれる植林を自費で行い、水害対策にも取り組みました。江戸に出て、師である錦江を通じて幕府に防災対策を進言するなど、その活動は多岐にわたりました。川越城主の秋元凉朝は、友山の功績を高く評価し、狩野周信筆の鷹絵を贈っています。

明和元年（1764年）に武蔵国から信濃国にかけて発生した大規模な一揆（中山道伝馬騒動）の際、友山の住む村では、奥貫家だけが打ち壊しを免れたと伝えられています。

天明7年（1787年）11月10日、80歳でその生涯を閉じました。墓は川越市大字久下戸にあります。

大正13年（1924年）には、その功績が認められ、従五位が追贈されました。

遺訓

友山は、土地や年貢に関する帳簿、米や雑穀の値段表など、当時の貴重な史料を現代に残しました。奥貫家は現在も存続しており、屋敷は埼玉県指定文化財（旧跡）となっています。

彼が著した『大水記』には、防災に関する教訓が数多く記されており、戦前の修身の教科書や現代の防災関連書籍にも引用されています。

関連情報

* 博喩堂

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