寺島町奇譚

『寺島町奇譚』

『寺島町奇譚』（てらじままちきたん）は、漫画家・滝田ゆうによる自伝的な作品です。この作品の舞台は、太平洋戦争の時代にあたる東京下町の玉の井、特に寺島町に位置した私娼街です。作中には、永井荷風の小説『濹東綺譚』でも言及のある場所が描かれています。現在の墨田区の東向島やその周辺が該当します。

物語の中心となるのは、スタンド・バーの息子である少年キヨシです。彼の視点を通して、家族や友人、バーの常連客、近所の人々、さらにはキヨシの家で飼われている猫のタマや、地元の銘酒屋の女、訪れる男たちが織りなす生活が描かれています。この作品はユーモアを交えつつ、ペーソスや風刺を効かせた筆致で、多様な登場人物たちのドラマを展開しています。

物語は1945年3月10日の東京大空襲が描かれており、この悲劇的な出来事によって玉の井が焼け野原になってしまう様子が、わずかなページでありながら、力強く表現されています。特に空襲の恐ろしさやそれによってかき乱される日常の描写は、作品全体に深い陰影を与えています。

『寺島町奇譚』は、1968年12月から1970年1月まで『ガロ』に連載され、その後『別冊小説新潮』にも掲載されました。さらに、講談社漫画文庫やちくま文庫など、さまざまな形態で再出版されています。

1976年には、秋吉久美子主演のドラマとして映像化され、NHKの土曜ドラマで放送されました。脚本は有名な中島丈博が担当し、三木のり平や七尾伶子、浦辺粂子、森本レオ、伴淳三郎といった俳優陣が出演しました。さらに、1993年にはオリジナルビデオアニメとして制作され、その際はアニメ演出家の小林治が監督を務めました。

この作品に関連する単行本には、『寺島町奇譚』全3冊（講談社漫画文庫、1976年）、『寺島町奇譚』（青林傑作シリーズ、青林堂、1976年）、『寺島町奇譚』（ちくま文庫、1988年）、『滝田ゆう漫画館 第1-2巻（寺島町奇譚）』（筑摩書房、1992年）、『寺島町奇譚 傑作選』（復刊ドットコム、2018年1月）が含まれています。

また、ドラマシナリオとしては、中島丈博の『わが美わしの友 シナリオ作品集2』や『中島丈博シナリオ選集 第2巻』があるなど、様々な形でこの作品は多くの人々に親しまれてきました。珠玉の短編としての魅力や、歴史的背景を持つ作品である『寺島町奇譚』は、今なお多くの読者に愛され続けています。

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