寺沢寛一

寺沢 寛一

寺沢 寛一（てらざわ かんいち）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の理論物理学者、数学者です。1882年7月15日に現在の山形県米沢市に、旧米沢藩士の子として生まれました。少年期を地元で過ごした後、上京して旧制中学校、第一高等学校で学び、1905年に東京帝国大学理科大学物理学科に進みました。卒業後は同大学院で理論物理学を専攻し、1913年まで研究を深めました。

大学院在籍中の1913年3月に結婚し、同年10月からは海外に渡り、ドイツ、イギリス、フランスで研鑽を積みました。1917年1月に帰国後、東北帝国大学理科大学で講師を務め、同年11月には東京帝国大学より理学博士号を取得しています。その後、東北帝国大学工学専門部教授を経て、1918年には東京帝国大学理科大学の教授に就任しました。

東京帝国大学では、長年にわたり理論物理学・応用数学の研究と教育に貢献しました。理学部長や総長事務取扱といった要職も務めたほか、地震研究所や航空研究所の所長も兼任するなど、多岐にわたる活動を展開しました。1943年に東京帝国大学を定年退官しましたが、その後の日本の科学技術教育の発展にも力を尽くしました。

戦後、1947年には千葉工業大学の学長に就任し、その後、1949年から1959年までの10年間は電気通信大学の初代学長として、同大学の創設と発展に貢献しました。また、日本学術会議会員や日本学士院会員も務め、日本の学術振興にも尽力しました。

寺沢博士の業績の中でも特に有名なのは、応用数学に関する著作です。特に『自然科学者のための数学概論』は、自然科学や工学を学ぶ学生にとって必携の書として、長年にわたり読み継がれている古典です。1928年に初版が刊行されて以来、改訂を重ねながら多くの研究者や技術者によって活用され、応用数学教育における金字塔の一つとされています。

多くの優秀な研究者を育てた教育者としても知られ、その門下からは、山内恭彦（力学、応用数学）、小谷正雄（理論物性物理）、加藤敏夫（応用数学）、友近晋（流体力学）、永宮健夫（物性物理）、今井功（流体力学）、伏見康治（統計力学）など、日本の物理学・数学界を牽引した数々の弟子を輩出しています。

また、長岡半太郎、田中館愛橘、寺田寅彦、石原純といった当時の著名な物理学者をはじめ、南原繁、朝永振一郎、松前重義など、幅広い分野の学者・教育者との交流がありました。

その功績に対し、1965年には銀杯一組（正三位勲一等に相当）を賜りました。1969年2月5日、86歳でその生涯を終えました。

寺沢寛一は、理論物理学と応用数学の分野における第一人者として、また優れた教育者・指導者として、日本の科学技術の発展に計り知れない貢献を残しました。特に『自然科学者のための数学概論』は、現在でも多くの学生や研究者にとって重要な基礎文献となっています。

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